善の使徒
「まいったね」
私はぼやくように言う。
眼下から放たれる銃弾は止まりそうもない。
「自分で選んだ道でしょ」
歩美は辛辣だ。
「そうだけどね」
「何故、お前達は……」
聞きなれぬ声が会話に混ざった。
「歩美、声渋くなった?」
「いや、けど、なにか気配を感じる……」
次の瞬間、私は黒一色の世界に入り込んでいた。
老人が、杖をついて白い布を体に巻き立っていた。
「何故、お主達は自分を犠牲にすることを選んだ?」
「簡単な問いです、ご老体。それで味方が助かるからです」
「お前自身の命はどうなる」
「考えてませんでした」
老体は、溜息を吐く。
「いつかその考え方はお前自身の命を拐うぞ」
「覚悟の上です」
「無秩序で狂おしいほどの善。お前の決意、見せてもらった」
老体が光り輝くネックレスになり、私の胸元に収まる。
「さあ、後は勝つがいい」
意識を取り戻すと、空の上だった。
地上には敵の狙撃部隊。スナイパーライフルが設置されようとしている。
今なら、なんでもできそうな気がする。
そう思い、炎を放った。
業火が道を焼き、車を爆発させた。
敵が消えた。一瞬で。
胸元に手を触れると、金色のネックレスがあった。
賢者の石が私に与えてくれた力。それは、コピーした能力を五割増しで放つこと。
つまり、オリジナルを超える場合も出てくるわけだ。
「どんどん化物染みてくるなあ……」
思わず、私は呟いた。
ひとまず、私のルートの敵は沈黙したと言っていいだろう。
第七話 完
次回『秩序の使徒』




