六賢人
「お主は」
気がつくと、相馬は黒い空間にいた。
一寸の先も見えない。不安が心をよぎる。
「悪かった。お主達は闇を恐れる生き物であったな」
そう言って、指を鳴らす音がする。
空が頭上に広がり、草原が足元に広がった。
「我が名はテオ。秩序の使徒」
そう、少年が名乗る。
相馬は戸惑いながら、答えを返す。
「俺は相馬。俺は……死んだのか?」
結婚したばかりで? 娘を置いて?
「いいや? この世界は外の世界に比べて時間の流れが遅い。ゆるりと話しても構わないだろう」
「……薄々嫌な予感がしてきたぞ。お前、何者だ」
「六賢人、秩序の使徒、テオ。賢者の石に宿りし意志の残骸とでも呼べるもの」
「賢者の石が、俺に興味を……?」
「そういうことだよ。君はあのメンツの中では弱い。何故、残ることを選んだ」
「遠距離狙撃型が残るのが一番だと思った。それが、自然だ」
「実に合理的だね。けど、その計算に君自信の命の危機は数えられているのかな?」
「俺が死んでも、娘は嫁が見てくれる。死んでもいいや程度の気分だった」
「くっくっく」
テオは喉を鳴らして笑った。
「お前は自分に甘いのか厳しいのかわからない男だな。そこは、嫁のためにも自分は生き残りたいと思うところであろう」
「信頼してるんで。相手を」
「よかろう。お前の行動には正義がある。秩序がある。私はお前の力たらんとしよう」
「俺に、力を……?」
「目を覚ませ。お前の攻撃力は格段に上がっている」
一瞬、自分の気が緩んでいると気がついて、気合を入れ直した。
(今のは、夢か……?)
敵の拳銃の射程範囲の外に逃げる。
そして、銃弾のリロードをすると、手首に見慣れぬブレスレットがあることに気がついた。
金色の、ブレスレット。
(まさか……)
「自分を信じて力を込めてみな」
テオの声がした。
銃を構えて、敵に狙いを定める。
その瞬間、銃口が巨大になった。
「まさか、な……」
自分自身でも半信半疑だった。
銃弾を放った瞬間、闇の中に光が走った。
巨大なレーザーが、敵を蹂躙していた。
「これが……賢者の石……」
半分戦々恐々としつつ、相馬は呟いた。
第六話 完
次回『善の使徒』




