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激戦

 しばらくは、平穏に過ぎた。

 仙台の都市部も今は遠く、今は茨城の日立市に来ている。


 日立。日本でも有名な会社の名前だ。

 何度めかはわからない道の駅で休む。

 アラタ、相馬、楓あたりはストレッチをして準備を整えている。


 ここから、三つの車はまったく違った進路を取る。

 助けに入るのは困難だろう。

 その覚悟を決めようと、私達は話し合っていた。


「楓」


 相馬が言う。


「……なによ」


「リポビタは経費で落ちるか?」


 楓は肩透かしを食らったような表情で、そっぽを向いて答えた。


「後から室長に訊いてみれば?」


「そうだったな。お前、俺の同僚で上司じゃなかったもんな」


 そう言って、相馬は近場のコンビニに歩いていく。


「敵が仕掛けてくるとしたらここよ。ソウルキャッチャー」


 楓が氷のような目で私を見る。


「お互い、働きには注意しましょう」


「わかってますよ」


「終わった!」


 素っ頓狂な声が聞こえてきたのはその時だ。

 大輝の声だ。


「これで寝れる……」


 そう言うと、彼は背もたれを後ろに倒して、目を閉じた。


「なにが終わったのー?」


 私は問う。


「吸収した魂達との相談が終了した。これで十全に力を使える」


 絶句した。

 それは、とてもとてつもない話だろう。魂一つ相手にするだけでも時間のかかることだろう。

 それを、彼はやり遂げたのだ。


「私と、あなたと、大輝で敵を迎え撃つわよ」


 楓の声に、私は頷いた。




+++



 車が走り始める。周囲は夜になる。警官隊には準備をしてもらってある。少し凌げば援軍が来る仕組みだ。

 だから、敵は無謀な行動など取らないだろう。

 というのが、楓の推測であり、浅慮な考えだった。


 馬鹿は時々とんでもない行動に出る。そして、計算をぶち壊して結果をつかむのだ。

 銃弾が飛んだ。

 防弾ガラスにヒビが入る。


「来たな。ハズレくじを引いちまったかな」


 相馬が言う。


「私は範囲殲滅できるから、相性としては悪くはない。運が良かったと思いましょう」


 そう言って、楓は体から身を乗りだして炎で敵の車のタイヤを溶かそうとする。

 しかし、溶けない。


「バリア……?」


 銃弾が頬を掠めていく。

 素人がこの揺れる環境で銃弾を当てるのは苦難の技だろう。

 しかし、ラッキーヒットという可能性もある。

 楓は顔を引っ込めた。


「警官隊が来るまで足止め役がいるわ」


 楓の言葉は、異様に冷たく室内に響いた。


「今回は、私が出ようと思う。第二波、第三波が来たらその都度誰かが殿を守って」


「なら、違うだろう」


 そう、相馬が言う。


「司令官が一番に降りるのは下策だ。ここは、俺がいい」


 相馬はそう言って、宙を浮く。


「俺なら、いてもいなくなっても変化はない」


 そう言うと、彼は銃弾を放った。

 それは敵の車数台を尽く貫き、スリップさせた。


「行きな」


 そう、相馬は外に立って背を向ける。


「エレメンタルカラーズを放とうとされたら」


「わかってる。こっちから属性技を叩き込んでバランスを崩させる」


「死ぬ気じゃないでしょうね。あんた、もう二人の人生を肩に乗せてるのよ」


「……生きて帰るさ、ハニー」


「その呼び方はないわ」


 二人で、少し笑い合う。

 銃弾が飛んで来た。

 相馬は上空に飛んで逃れる。

 そして、倒れた車から這い出てきた人々を次々に狙撃していく。


 楓の車は、走り始めた。

 その荷台から、黒い液状のなにかが落ちたことに、誰も気が付かなかった。



+++



「しまった!」


 恭司が言った時には、既に遅かったのだ。

 タイヤを狙撃された。

 車がスリップして、畑に落ちる。


「くそ。ここから徒步とか無理だろ」


 私は歩道の中央に出ると、バリアを張り、同時に動きを鈍らせるスキルを使う。

 赤いスポーツカーが、私の隣をゆっくりと進んでいく。

 その鍵を、奪い取った。


 車が少し先で止まる。鍵を、恭司に渡す。

 恭司達は賢者の石を運んでいるところだった。


 銃弾の雨あられだ。

 恭司達の前に立ち、動きを鈍らせるスキルで銃弾を無効化させる。


「運びきるまで何秒かかりそう?」


「三分だ。量が多い」


「長い三分になりそうね……」


 ぼやくように言うと、私は指で空をなぞった。光の線が現れ、爆炎となって敵を襲った。

 一時的に銃声がやむ。車の陰に隠れたようだ。


(そのまま怯えててくれよ……)


 祈るように思う。


 敵の中から、一人の男が前に出た。


「やあ。昨日のエレメンタルカラーズ攻略にはたまげたよ」


「私の策じゃないわ。上司の策」


「しかし、それだけで君達は難敵だとわかった」


「なにが言いたい?」


 私は、相手を睨めつける。


「翠、早く合流して!」


「先に行って」


「翠!」


「早く!」


 恭司はしばらく躊躇っていたが、そのうち覚悟したように言った。


「撫壁と黒雷を持っていけ」


「……わかったわ」


 苦笑して、二つのスキルを恭司から受け取る。

 恭司は徴用した車で走っていった。


「あなた達はここで足止めだ。いかなる銃弾も、私を傷つけることはできない」


「そうかい。なら、属性の輝きならどうかな」


 男は後方に飛んで、掌を前に差し出した。

 その四本の指から、別々の色をした属性が中央へと走る。


「まさか……」


 私は唖然とする。


「そのまさかだよ」


 そう言って、男は笑って、エレメンタルカラーズを放った。




+++




 つけられてる。そうと気がついたのは大輝だ。

 最近寝てばかりいたが、その時の休みを取り戻そうとするような元気さだ。


 敵の車の窓から男が顔を覗かせる。

 その手には、銃があった。

 大輝が咄嗟に体を外に乗りだし、銃を放つ。

 男は眉間を貫かれて地面に落ちていった。


 ついでのように、大輝は銃弾を放つ。

 タイヤを撃ち抜かれた敵の車が、スリップして畑に落ちていった。


「スピード、上げろ。第二波来るぞ」


「了解」


 エレーヌは車のアクセルを徐々に踏み込んでいく。

 第二波はしばらく来なかった。このまま永遠に来ないのではないかと思った。

 大型車両の前にトラックが立ちはだかったのはそんな時だった。


「そのまま走れ!」


「ミンチですよ!」


「いいから走れ! 死んだら俺が責任取ってやる!」


 大輝は怒鳴るように言う。

 そして、呼吸を吸って、吐くと、風を放った。

 全てを吹き飛ばすような暴風。それはトラックを持ち上げて遠くへと落下させた。

 エレーヌは唖然としながら、アクセルを踏み切る。


「ここらで降ろしてくれ。敵の第二波第三波を防ぐ」


 そう言って、大輝は車を降りる。


「どうやって見分けるんで?」


「俺はソウルキャッチャーだぞ。敵がどんなスキルを持ってるか見えるんだ」


「なるほど」


「それに、ここらは援軍が近い」


 援軍? 確かに一緒に進んでいる警察の車ならあるが、それは賢者の石を積めた車の護衛を第一にするのではないだろうか。

 戸惑いながらも、車の運転席のアクセルを乗る。

 そして、彼女と目があった。


 穏やかな微笑み。

 前に一緒にいた時は、なにを考えていたかわからなかった。

 シンシアが、手を下ろしたままピースサインをして、目を伏せて歩いて行った。


 そうだ。

 シンシアを忘れていた。

 罪滅ぼしをするためなら、命ぐらい簡単に捨てる子だった。

 エレーヌはブレーキを踏みそうになる。


 しかし、それは仲間全体に対する裏切りだ。

 エレーヌの車は、夜の町を進む。




第四話 完


次回『エレメンタルカラーズ』


先週は更新量が少なく、ここで区切りという宣伝もできず申し訳ありませんでした。

スランプだったのです。

今週は第十八章、すべて投稿できます。

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