ヤケクソのお祝い
スキルとして発現する前のそれには独特の性質がある。
例えば、水の元となる魔素と火の元となる魔素を混ぜ合わせると蒸発して消滅する。
もしも、四大魔素と呼ばれる水、火、土、風を混ぜ合わせて、一定の状態で維持できたらどうなるだろう。
それを放った時どれぐらいの威力を持つだろう。
その解いに答えを出したのが、エレメンタルカラーズだった。
「先生も紐解いていたんです。けど、私達は力が今ひとつ一致しなくて」
エレーヌが申し訳なさげに言う。
「成功回数は?」
私は訊ねた。
「五回に一回」
「悪く無いギャンブルだ」
銃声が鳴った。
相馬が頭上から男を撃っていた。
しかし、バリアはびくともしない。
勇気のレーザーも通用しない。
ならば、他に手はあるまい。
「あんまり、気乗りはしないけどね……」
私はぼやくように言うと、ワープスキルを発動し、敵のバリアの中に侵入した。
そして、男に向かって銃を放とうとする。
その背後から、恭司が追撃にと飛びかかっているのが見えた。
二人はどうなったか。
相馬に抱き抱えて一時撤退した。
エレメンタルカラーズの援護攻撃で王将から撃破というわけにはいかなそうだ。
エレメンタルカラーズの中央で光が迸る。
そして、輝く球体が直線状に放たれた。
「火、水!」
楓が手短に叫ぶ。
「土!」
私は同調して叫ぶ。
「わかったよ。風でいいんだろ風で」
大輝が混じってくる。
四人の中央に光が現れる。
それは時に反発し、時に喰らいあいながらも、増殖している。
「いくぞ!」
そう言って、私達はエネルギーの塊を相手のエネルギーの塊にぶつけた。
そして、終わった時、唖然としたような静寂がそこに残った
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「さあさあ皆さんジョッキやコップを抱えてー」
楓が声を張り上げる。
「かんぱーい!」
「かんぱーい!」
返事の声が重なり合う。
相馬はもうビールのおかわりを注文していた。
「賢者の石は宮城支部に保護されて、ひとまず安心といった感じですかね」
葵が苦笑交じりに言う。
私は、頷いていた。
「そうだね。私達じゃ使いこなせなかったけど。なんとかなるでしょ」
「そこの二人、予測が甘い!」
そう言って、楓はパチンコ玉を投げた。それを私は宙空で受け止める。
「今日の夕方、こんなことがありました」
そう言って、楓は過去を語り始めた。
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「賢者の石を大量に所持している」
そう申し出たのは、かつて伊達政宗公に仕えたという一族の末裔だった。
これで天下を取れる!
そうその一族の先祖は言ったそうだが、政宗公は百の超越者がいようと一万の鉄砲に勝てるものか、と返したという。
しかし、もしも幕府の情勢が崩れた時は……。
そう思い、厳重に監視した賢者の石が今に続いているという。
それを、警察に譲れないかという話が出た。
支部でそれを預かるのは少々不安だ。
本部に持っていきたい。
しかし、本部まで運ぶ人材がいない。
いや、丁度良い連中が観光に来ている。責任はそいつらに取らせればいい。
そうして、楓隊は経験値の高さも相まって見事に利用されたのだった。
三台のトラックに分かれて走ることとなった。
高速道路も新幹線も利用しない。
逃げ場所と隠れる場所がないからだ。
逃げ道がある場所を選んで走り、ゴールを目指す。
楓隊は、仮眠をとって一同ホテルのフロントに集まった。
「これから命のやりとりってのに安いホテルを取りやがる」
「食事別だから十分贅沢はしましたよ」
相馬と恭司が語り合う。
「一応打てる手は打った」
そう、楓は呟くように言う。
「本当ですか? 援護がくるとか?」
エレーヌが不安げに問う。
「まあそんなとこよ。敵を足止めする人材は足りないぐらいだからね。警官隊も銃を持って援護してくれる」
「そっかぁ……」
エレーヌは胸を撫で下ろす。
「仙台から東京まで大体五時間ぐらいでしょ? 五時間生き延びればいいと思えばいいじゃない」
「好きですよ、そういう楽観論」
私はつい、半分嫌味で言う。
「そうでしょうよ」
楓は、投げやりに言う。
「非建設的ですね」
私は追い打ちをかける。
「だね」
そう言って、楓は伸びをする。
「やってやろう。私達は、戦士だ」
「そうですね……賢者の石さえ警視庁に届けば、色々なことが変わる」
「そう楽観視もできないんだけどね」
そう言って楓は、ビールの一気飲みをした。
そして、おかわりを頼む。
「どういうことで?」
「敵は後ろだけにいるわけじゃないってことよ」
そう言って楓は、届いたビールを再び飲み干した。
そして、私達は東京に向かうトラックに乗り込む。
数は三台。
内部には賢者の石が詰まった壺が箱詰めされて入っている。
それは、事情を知らない人が見れば、ただの道を走るトラックだろう。
事情さえ、知らなければ。
不安を抱えながら、一同は出発した。
第三話 完




