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杜の都

「うわー、すごーい」


 仙台駅から出た私の第一声がそれだった。

 駅から二階の高さに張りめぐされた歩道。それが、安全な通行を実現している。


「政宗像は?」


 アラタが、周囲を見回しながら言う。


「場所変わったらしいわよ」


 楓が淡々とした口調で言う。


「マジかよ。写メ撮ってくるって響に約束したのに……」


「なあに、ほんの数十分歩くだけさ」


 そう言って、楓は悪戯っぽく笑った。


「伊達政宗公は、死後の自分の像は両目があるように作ってくれって言ったらしいね」


 私はうろ覚えのうんちくを言う。


「あれ、けど政宗像って隻眼じゃなかったっけ」


「奥さんがその遺言を破棄したんじゃなかったかな」


「……夫婦にしかわかんない話だな」


 エレーヌはぽかんとした表情で周囲を眺めている。


「どうした? エレーヌ」


 声をかけたのは、相馬だ。


「いや、凄いところだなと思って」


「生きていればお前さん達は色々な凄いものを見る。楽しみにしとくといい」


「はい!」


 そう言って、エレーヌは微笑んだ。


「セレナも来たがったんじゃない?」


 楓が問う。


「戦場からは離しておきたいもので。エレーヌちゃんも、なにかあったら戦闘には参加しないでね」


「約束はできかねます」


 エレーヌは苦笑交じりに言う。


「皆、私の恩人ですもの」


 くすぐったい気持ちになる。皆、そうだったのだろう。一瞬、沈黙が場を包んだ。


「さて、目的地へ行きましょうか」


 アラタが言う。


「ここの超対か」


 恭司が、淡々とした口調で言う。


「協力的だといいが」


「他所から来てパワーアップアイテムを譲れって迫るんだから、まあいい顔はされないわね」


 楓が苦笑交じりに言う。


「それでも、私達は手に入いれなくてはならない」


 私は、そう言って前を向いて歩き出す。


「賢者の石を」


 皆、頷いて歩き始めた。


「それにしてもずっと疑問だったことあるんだけど」


 楓が、呟くように言う。


「なんですか?」


 私は問う。


「なんか翠、若ない?」


 静寂が場を包んだ。全員が足を止める。


「女子高生レベルで若いよね」


 と、葵。


「二十歳以下って感じだよな」


 と、苦い顔で恭司。


「メイクでもそうは化けんだろ」


 と、相馬。


「セレナが上手くやってるか学校に侵入しようとして……」


「ずる! 若返りのスキル持ってたんだ! いつからよ!」


「石神を倒した時から……」


「そんな前から……私にも貸しなさいよ! 水月にも!」


「皆歳相応に見えたほうがいいじゃないですかぁ!」


「恭司さん。僕あれに手を出したら犯罪だと思うのですが」


 葵がさり気なくあれ呼ばわりする。

 恭司は腕を組んで唸った。



+++



 仙台市の超越者対策室は協力的だった。

 私達が着くなり、車を出して例の地へ導いてくれた。

 そして、私達は目的の土地へついていた。


「独特の気配を感じますね」


 仙台支部の男が言う。名は、修司と言ったか。


「出番よ、エレーヌ」


 楓はそう言って、エレーヌの背を叩く。

 エレーヌは大地に手を当てて、念じ始めた。

 目を閉じたエレーヌは、大地と一体化したかのようだった。

 そのうち、、その腕が震える。

 大地が微弱に揺れ始め、一箇所が盛り上がり始めた。

 そして、盛り上がっては周囲に散っていく土の中から、黒い弾力性のある塊が現れた。

 気配は、そこからしていた。


「ありがとう。十分だわ」


 そう、楓は言う。

 そして、ゴム手袋をつけた手で、賢者の石を小瓶に回収した。


「これで、未来と現在の繋がりが断たれることはない」


 楓は、安堵したように言う。


「まだいくつか感じますよ。念のため、回収したほうが得策かと」


 エレーヌが言う。


「そうね。回収してちょうだい」


 楓は、淡々とそう言った。

 予想外に、多くの賢者の石を回収できそうだった。


「ふはは、ここか、ソウルキャッチャー」


 高笑いが夜空に響いた。

 その瞬間、炎が、氷が、光刃が、闇の刃が、竜巻が、人影を襲う。

 私達の一斉攻撃だ。


 敵は尻もちをつきながら、バリアを張ってなんとか難を逃れたようだった。


「挨拶のチャンスぐらいくれよな、ソウルキャッチャー」


「なんの用?」


 楓が手を構えたまま、冷たい口調で言う。


「あるんだろ、賢者の石」


「敵の質問に答える義務はないわ」


「気配だけでわかるさ。これは尋常なものではない。どんな兵器ができるか楽しみだ」


 敵は微笑み顔になる。

 その口の中が氷で一杯になった。

 楓だろう。


 敵は氷を吐き、微笑んだ。


「こちらの準備も整ったようだ」


「うわ、マスター捕まってるよ」


 その声は、男の背後からしていた。


「使えない上に足引っ張るって上司として最悪ね」


「そう言わない。力をくれた人なのは事実だ」


「うむ。恩義がある。我々は働くのみだ」


「フォローはしたけど、そこまで真剣には考えてないんだけどね」


 四人の少女が現れた。

 各々、首に金のネックレスをしている。その色は、楓のイヤリングと酷似していた。


「ぞろぞろと戦場に姦しいわね」


 楓が呆れたように言う。


「あなた方の名は?」


 冷静で、けど平穏そうな少女が、数秒の思考の後答える。


「エレメンタルカラーズ。全てを、破るもの」


「ヤバイですよ、楓さん」


 エレーヌが、縋るように私の肘を引く。

 しかし、その時には既に私はスキルを発射していた。



第二話 完




次回『ヤケクソのお祝い』

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