決戦前の女子会
「あ、あこに光がある」
葵はそう言って、森の中の一点を指差した。
相馬にはその光が見えない。
「サイコメトラーの感覚って独特なんだな」
感心したように言う。
「多分、俺が未熟なんでしょうね。もっと慣れれば、色々なものが見えるようになる気がする……」
「うちの部署に来いよ。厚遇してやるぜ」
「給料が高いとか?」
葵は怪訝そうに訊く。
「いじめないでやる」
「酷いな」
苦笑するしかない葵だった。
「さあ、残っている記憶を読もう。ソウルキャッチャー事件も大詰めだ」
「そうですね。事件を、解決に導かなければならない……」
葵は決意に満ちた表情で、そう言った。
+++
一方、やることがない私達女性陣は集まって焼肉屋で飲み会をしていた。
最後の決戦が目の前にある。その前の息抜きだ。
「あれー、火ついてない」
楓がぼやくように言う。
「つけますよ」
そう言って、シスターが指を炭に接近させる。
炎がほとばしり、肉の焼ける香ばしい匂いが周囲に漂い始めた。
三人の前には、それぞれビールのジョッキが置いてある。
「それにしても、表に出れてよかったですね。えっと、シスター」
「水月です。椎名水月。流れる水に夜空の月で水月」
そう言って、シスターはジョッキをあおる。
「見事な飲みっぷりで。シスター水月」
「それにしてもこの店の店員は失礼ですね」
水月は憤慨したように言う。
「背低いと色々苦労するよねえ……合う服も限られるしさ」
楓も他人事ではないらしく、しみじみとした口調で言う。
楓と水月は、この店で身分証明証の提示を求められたばかりなのだ。
「だから最初、婦警ルックで来たんですか?」
「たまにやるんだ。疲れた時のコスプレだよ」
どこまでが冗談なのかわからない。
「ところで、シスター水月。シスターって彼氏はいるの?」
「イベントなどで機会はあるのですが……」
楓の容赦のない質問に、水月は言い淀む。
そして、逃げるように焼けた肉を口に入れた。
新しい肉が運ばれてきた。
楓がトングで焼き始める。
「翠は恭司がいるか」
「なんですか、その決めつけ」
私は慌てて反論する。
「見てりゃわかるよ。微笑ましいカップルだ」
楓はからかうように言う。
「いやー、それがですねえ。色々課題があるんですよね」
私はぼやき混じりに言う。
「色々ってーと?」
楓はトングを置いて、頬杖をつく。
「まず、剛を殺めた私に恋愛をする資格はあるのかということ」
「神は全てを許されます」
シスター水月は既に少し酔っているらしい。
「次に……なんか恭司君のラブレターが自作の歌詞だったこと」
楓が弾かれたように笑った。
「少し悩むでしょう?」
私は髪を弄りながら呟くように言う。
「どんな歌詞? どんな歌詞?」
楓は完全に面白がっている。
「君は僕の太陽、とか、傷ついた心を包んであげたい、とか」
「ぷはー、あははははは」
楓の笑い声が店内に響いた。
水月が笑いを堪えながら口を開く。
「純粋な方なんですね」
二人とも完全に笑ってるので私は身勝手ながら少し苛立った。
「悪い人ではないのはわかってるんですけどねえ……」
「良縁だよ、良縁」
楓がトングで肉をひっくり返し始める。
私は既に焼けた一枚を、ご飯に乗せて丸めて食べた。
「そうかそうか、恭司の奴はポエマーだったか」
楓はまだ楽しそうだ。美味しい肴を見つけたとばかりに美味そうにビールを飲む。
水月が小さく笑った。
話さなければ良かったな、と私は思った。恭司には悪いことをした。
「で、どう答えるの?」
楓が身を乗り出してくる。
「どうって……今まで通りですけど」
「酷いなあ。現状維持なんだ」
「結婚式は是非我が教会で」
酔いが回っているのか水月の意見は暴走していた。
「水月さんとこ焦げてるじゃないですか。私、嫌ですよ。焦げた教会で結婚式なんて」
「三ヶ月内に元に戻します」
「へー、宗教って儲かるんですかね。まあ、まだ結婚なんて話はなくて」
「若い二人に乾杯!」
楓がジョッキを高々と掲げ、水月がそれに自分のジョッキを軽くぶつける。
「酔ってますねえ……」
私はぼやくしかなかった。
「まあ他人の恋バナほど美味い酒の肴はねーや」
「そうですね。恋バナは正義です」
「恋、なのかなあ……まあ、身を挺して何度も守ってくれたし、年齢的にも丁度いいとは思うけど」
三人の夜は更けていく。
+++
葵と相馬の二人は、人だかりができているところに近づいていった。
光を追っていたら、そこに辿り着いたのだ。
「どいてくれ、警察だ」
そう言って、相馬は警察手帳をかざしながら、人混みをかき分けていく。
人だかりの中央には、倒れた人がいた。
相馬は脈を調べ、即座に心臓マッサージを始める。
「誰か近場のAEDを探してきてくれ。救急車を呼んだ人はいるか? あと、目撃者は残ってほしい」
相馬が指示を出す。即座に、周囲が動き始めた。
葵は、呆然と道を見ていた。
「なにしてる、葵。暇ならAED持って来い」
「いえ、見えるんです」
「なにがだ」
「歩いていく道を示すように、光の足跡が……」
相馬が一瞬、動きを止める。しかし、すぐに心臓マッサージを再開した。
「誰か心臓マッサージを変わってくれ。俺は犯人確保に移らなきゃならん」
相馬が叫ぶ。
そのうち、医療関係者を名乗る人物が現れ、交代を申し出た。
相馬は目撃者の連絡先を訊くと、葵の背中を叩いた。
「行くぞ」
葵は、覚悟を決めたように頷く。
ソウルキャッチャー事件も大詰めを迎えようとしていた。
第二十二話 完
ソウルイーターとの決戦も近づいてきましたが、その後も黒幕との攻防、超越者殺しの登場などのイベントがあります。
長期連載を目指しているので付き合っていただけると幸いです。




