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ソウルキャッチャーズ~私は一般人でいたいのだ~  作者: 熊出
第一章 私は一般人でいたいのだ
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決戦前の女子会

「あ、あこに光がある」


 葵はそう言って、森の中の一点を指差した。

 相馬にはその光が見えない。


「サイコメトラーの感覚って独特なんだな」


 感心したように言う。


「多分、俺が未熟なんでしょうね。もっと慣れれば、色々なものが見えるようになる気がする……」


「うちの部署に来いよ。厚遇してやるぜ」


「給料が高いとか?」


 葵は怪訝そうに訊く。


「いじめないでやる」


「酷いな」


 苦笑するしかない葵だった。


「さあ、残っている記憶を読もう。ソウルキャッチャー事件も大詰めだ」


「そうですね。事件を、解決に導かなければならない……」


 葵は決意に満ちた表情で、そう言った。



+++



 一方、やることがない私達女性陣は集まって焼肉屋で飲み会をしていた。

 最後の決戦が目の前にある。その前の息抜きだ。


「あれー、火ついてない」


 楓がぼやくように言う。


「つけますよ」


 そう言って、シスターが指を炭に接近させる。

 炎がほとばしり、肉の焼ける香ばしい匂いが周囲に漂い始めた。

 三人の前には、それぞれビールのジョッキが置いてある。


「それにしても、表に出れてよかったですね。えっと、シスター」


「水月です。椎名水月。流れる水に夜空の月で水月」


 そう言って、シスターはジョッキをあおる。


「見事な飲みっぷりで。シスター水月」


「それにしてもこの店の店員は失礼ですね」


 水月は憤慨したように言う。


「背低いと色々苦労するよねえ……合う服も限られるしさ」


 楓も他人事ではないらしく、しみじみとした口調で言う。

 楓と水月は、この店で身分証明証の提示を求められたばかりなのだ。


「だから最初、婦警ルックで来たんですか?」


「たまにやるんだ。疲れた時のコスプレだよ」


 どこまでが冗談なのかわからない。


「ところで、シスター水月。シスターって彼氏はいるの?」


「イベントなどで機会はあるのですが……」


 楓の容赦のない質問に、水月は言い淀む。

 そして、逃げるように焼けた肉を口に入れた。

 新しい肉が運ばれてきた。

 楓がトングで焼き始める。


「翠は恭司がいるか」


「なんですか、その決めつけ」


 私は慌てて反論する。


「見てりゃわかるよ。微笑ましいカップルだ」


 楓はからかうように言う。


「いやー、それがですねえ。色々課題があるんですよね」


 私はぼやき混じりに言う。


「色々ってーと?」


 楓はトングを置いて、頬杖をつく。


「まず、剛を殺めた私に恋愛をする資格はあるのかということ」


「神は全てを許されます」


 シスター水月は既に少し酔っているらしい。


「次に……なんか恭司君のラブレターが自作の歌詞だったこと」


 楓が弾かれたように笑った。


「少し悩むでしょう?」


 私は髪を弄りながら呟くように言う。


「どんな歌詞? どんな歌詞?」


 楓は完全に面白がっている。


「君は僕の太陽、とか、傷ついた心を包んであげたい、とか」


「ぷはー、あははははは」


 楓の笑い声が店内に響いた。

 水月が笑いを堪えながら口を開く。


「純粋な方なんですね」


 二人とも完全に笑ってるので私は身勝手ながら少し苛立った。


「悪い人ではないのはわかってるんですけどねえ……」


「良縁だよ、良縁」


 楓がトングで肉をひっくり返し始める。

 私は既に焼けた一枚を、ご飯に乗せて丸めて食べた。


「そうかそうか、恭司の奴はポエマーだったか」


 楓はまだ楽しそうだ。美味しい肴を見つけたとばかりに美味そうにビールを飲む。

 水月が小さく笑った。

 話さなければ良かったな、と私は思った。恭司には悪いことをした。


「で、どう答えるの?」


 楓が身を乗り出してくる。


「どうって……今まで通りですけど」


「酷いなあ。現状維持なんだ」


「結婚式は是非我が教会で」


 酔いが回っているのか水月の意見は暴走していた。


「水月さんとこ焦げてるじゃないですか。私、嫌ですよ。焦げた教会で結婚式なんて」


「三ヶ月内に元に戻します」


「へー、宗教って儲かるんですかね。まあ、まだ結婚なんて話はなくて」


「若い二人に乾杯!」


 楓がジョッキを高々と掲げ、水月がそれに自分のジョッキを軽くぶつける。


「酔ってますねえ……」


 私はぼやくしかなかった。


「まあ他人の恋バナほど美味い酒の肴はねーや」


「そうですね。恋バナは正義です」


「恋、なのかなあ……まあ、身を挺して何度も守ってくれたし、年齢的にも丁度いいとは思うけど」


 三人の夜は更けていく。



+++



 葵と相馬の二人は、人だかりができているところに近づいていった。

 光を追っていたら、そこに辿り着いたのだ。


「どいてくれ、警察だ」


 そう言って、相馬は警察手帳をかざしながら、人混みをかき分けていく。

 人だかりの中央には、倒れた人がいた。

 相馬は脈を調べ、即座に心臓マッサージを始める。


「誰か近場のAEDを探してきてくれ。救急車を呼んだ人はいるか? あと、目撃者は残ってほしい」


 相馬が指示を出す。即座に、周囲が動き始めた。

 葵は、呆然と道を見ていた。


「なにしてる、葵。暇ならAED持って来い」


「いえ、見えるんです」


「なにがだ」


「歩いていく道を示すように、光の足跡が……」


 相馬が一瞬、動きを止める。しかし、すぐに心臓マッサージを再開した。


「誰か心臓マッサージを変わってくれ。俺は犯人確保に移らなきゃならん」


 相馬が叫ぶ。

 そのうち、医療関係者を名乗る人物が現れ、交代を申し出た。

 相馬は目撃者の連絡先を訊くと、葵の背中を叩いた。


「行くぞ」


 葵は、覚悟を決めたように頷く。

 ソウルキャッチャー事件も大詰めを迎えようとしていた。



第二十二話 完

ソウルイーターとの決戦も近づいてきましたが、その後も黒幕との攻防、超越者殺しの登場などのイベントがあります。

長期連載を目指しているので付き合っていただけると幸いです。

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