天衣無縫
「お。帰ったか」
相馬が淡々とした口調で言う。
私は、英治の手を握った。
「な、なんだよ。急に」
「離さないで……」
「ああ、まあ、いいいけどさ」
「それにしても中学生時代が舞台だとはな。願望を抑えろよ」
「夢の中で願望を望んで悪い?」
相馬の一言に、私は淡々とした口調で言う。
「行こう。最後の土地まで、そう遠くはない」
そう言って、私は英治の手を離して歩き始めた。
その後に、しゃがみこんでいた相馬と、英治が続く。
「お前がピンチだったらさ」
英治が言う。
「俺が助けてやるよ。だから、安心しな」
「期待してるよ」
私は苦笑する。
その頬に、一筋流れるものがあった。
涙だ。
「……大丈夫か?」
不安げに相馬が訊く。
「大丈夫。それに、今度の相手は油断を許してくれる相手じゃなさそうだ」
そう言って、私は天を仰ぐ。
目の前には絶壁。空には、他でもない斎藤翠が浮かんでいた。
天衣無縫、斎藤翠。
それが、私達の前に立ちはだかる最後の敵のようだった。
「もうちょっとマシな敵が出るようにしろよ!」
相馬が怒鳴る。
「私だって楽したいわ!」
私はそう言い返す。
巨大な火球が私達に降り注いだ。
第八話 完
次回『死闘』




