表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ソウルキャッチャーズ~私は一般人でいたいのだ~  作者: 熊出
第十七章 叫んだって嘆いたって戻れりゃしないんだ
224/391

接近

 病室で、イヤリングが光を放ち始めた。


「近づいている。限りなく、イヤリングの記憶に近づいている」


 葵が興奮気味に言う。


「けど、わからないわ。どんな敵が待ち受けているか」


 真千子が、表情を曇らせて言う。


「敵?」


 翠が、二人の横に座って言う。


「石神勇人と島津武豊が障害として出てきた。どうやら、楓さんが強敵と認めた相手がボスとして出てくる仕組みみたいです」


「それじゃあラスボスを倒せば……?」


「イヤリングの記憶が見れる」


 葵は、輝くイヤリングに視線を落としながら言う。


「相馬さんを送ったのは正解だったね。物語が急速に動き始めた」


 真千子が言う。


「けど、戦力的には不足してるかもしれない。俺の想像が現実だったら……」


 そう言って、葵は翠を見る。

 翠は怪訝そうな表情をするだけだった。


 その時、楓が唸り声をあげた。そして、彼女は起き上がる。


「楓さん!」


 翠が近づいていく。


「私を戻して!」


 楓の第一声がそれだった。


「楓さん……?」


 翠は戸惑う。こんなに焦った楓の姿を見るのは初めてだ。


「節子や英治がいるあの世界に返して! 私が本当にほしい世界はここなんかじゃない!」


「落ち着いて。楓さん、ちょっと落ち着いて」


 楓は軽い錯乱状態のようだ。

 すぐに葵が駆けていき、看護師を呼んできた。

 そして、楓の手に注射がうたれる。


「じきに眠くなりますよ」


 楓は、落としたおもちゃを拾った子供のような、安堵した表情になって目を閉じた。


「……楓さんらしくなかったね」


 翠は呟くように言う。


「この人でも取り乱すことってあるんだな」


 葵は、戸惑うように言う。


「最終目的地まで後ちょっと」


 真千子が、淡々とした口調で言う。


「けど、この人は現実に帰ってこれるのかな?」


 不安げな口調だった。


「現実は厳しい。取り返せない喪失だってあるし、働かなければ食事もままならない。夢こそは優しいままで人を受け入れてくれる」


「……楓さんは、そんな弱い人じゃないわよ」


 祈るように、翠は言った。



第七話 完


次回『天衣無縫』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ