嫌な予感
「嫌な予感がするんだよな」
相馬が、ぼやくように言う。
「と言うと?」
訊ねるのは英治だ。
「最初のボスが石神だ。ここから先も、楓の記憶の中で強いと思っている人物が立ちはだかる可能性がある」
「楓、そんなに強い奴と沢山戦ったのか?」
英治が興味深げに聞く。
「そうね。色々な奴と戦ったわ」
「ずりーなあ。俺も戦いたかった」
私は、胸が痛むのを感じた。
「戦えるよ。きっと」
そう、励ますように言う。
「ああ。俺も楓並みに頑張らないとだな」
そう言って、英治は炎の渦を手に作り出し、コントロールの練習をする。
それは、後の彼から比べれば酷く不格好だった。
「それにしても、店がないな。見渡す限りの草原だ」
「目的地に近づいているんだろうな」
相馬が、淡々とした口調で言う。
「多分、目的地は都会ではない。イヤリングの原材料となる賢者の石はどこかから掘り出された。そこに徐々に近づきつつあるわけだ」
「……楓。なに言ってるかわかるか?」
「わかる」
「仲間はずれは俺だけかぁ」
英治は溜息混じりに言う。
「大丈夫。そのうち、英治にもわかるように説明するよ」
「ん。頼む」
その時に、私はこの世界にいるだろうか。
不安が私を苛む。
英治が恋しかった。再会は不格好だった。
私は、この世界に永住したかった。
「ほらな。嫌な予感はばっちりだ」
そう、相馬が言う。
草原の中央に、巨大な赤い結界が見えた。
その先は、絶壁となっている。
結界の内部の敵を撃破しなければ、通れない仕組みなのだろう。
「島津武豊、か……」
私はそう言うと、腕まくりして結界へと進み始めた。
「勝機はあるのか?」
「人質がいなければ余裕」
「そうか」
不安はある。
しかし、立ち止まってなんていられなかった。
第五話 完
次回『山吹楓対島津武豊』




