表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ソウルキャッチャーズ~私は一般人でいたいのだ~  作者: 熊出
第十七章 叫んだって嘆いたって戻れりゃしないんだ
220/391

現実世界

「大丈夫でしょうか」


 翠が不安混じりに言う。

 病室のベッド二つに並んで寝ている楓と相馬。もう三日も目覚めていない。点滴が彼らの栄養だ。

 そして、床には葵と真千子が、楓のイヤリングを囲んで座っている。


「楓のイヤリングの原材料となった賢者の石。それは、葵くんのサイコメトリーでは見つからなかった」


 室長が淡々と言う。


「ええ。それで真千子ちゃんのソウルリンクで直接イヤリングの賢者の石の記憶に繋いでみることになったんですよね」


「それで、探れると楓は信じた。信じたらやるんだからな」


 室長は苦い顔だ。


「私は心配です」


 翠は溜息混じりに言う。


「夢には色々ある。悪夢だってある。理不尽な夢だってある」


「中学生時代の夢を見ていたそうだよ」


「中学生時代の夢……?」


「楓くんが起きた時にそう言っていた。そして、睡眠薬でまた長い眠りについた」


「中学時代の楓さん、かぁ」


「可愛らしい子だったようだよ」


「マジですか」


「彼女のあの性格は彼女の親友による影響が強いようだ。その、親友の夢を見ていたのだろうね」


「前へ進めたのでしょうか」


「わからんところだよ」


 そう言って、室長はその場を後にした。


「葵くん、真千子ちゃん、無理しないでね」


 翠がそう言うと、二人は微笑んで手を振った。



+++



 私の部屋で二人は座り込む。ドアが歪み、空からはバケツをひっくり返したような雨が降り、稲光が時たま輝く。


「現実世界でのことはどこまで思い出した?」


 相馬が言う。


「賢者の石の記憶がロックされているところまで」


「そこにダイブしてロックを解いていくのが俺達の仕事だ」


「解除ねえ……この夢の世界、私の内部で完結してるよ。だから、道だって途中で絶壁になった」


「絶壁の向こうに行くしかあるまい」


 相馬は淡々とした口調で言う。


「……楽しかった」


「そうか」


「楽しかったんだ」


 相馬は黙り込む。

 英治がいて、節子がいた。

 それだけで、世界は輝いて見えた。


「なら、英治の奴も誘ってやるか」


「英治を?」


「戦力補強だよ。好きだろ、お前」


「……そうだね。なにか、役に立つかもしれない」


 そして、二人は立ち上がった。

 ドアの歪みが治る。

 二人は外へ出て、英治の家へ行った。


 英治はチャイムを押すと、出てきた。


「なんの用だ? 男連れで」


「協力してほしいのよ」


 私は懐かしさに相好を崩しながら言う。


「協力?」


「スキル使い放題」


「マジかよ」


「上からの直接の依頼だからね」


「乗った」


 そう言って、英治は靴を履いた。


「行こう、戦いの地まで!」


「……こんな単純な奴だっけ?」


 相馬が小声で私に囁く。

 相馬が知っているのは、落ち着きを持ち、的確な状況判断をする大人の英治だ。戸惑うのも仕方がない。


「大人になる前だからね」


 私は苦笑してそう答えるしかない。



第三話 完

次回『立ちはだかる障害』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ