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ソウルキャッチャーズ~私は一般人でいたいのだ~  作者: 熊出
第一章 私は一般人でいたいのだ
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役者は揃った

「うーん」


 深夜の森を前にして、私は唸り声を上げた。


「どうしたのよ。猫の魂を吸収してるから夜の森もくっきり見えるじゃない」


 歩美が怪訝そうに訊く。


「まさか熊退治に駆り出されるとはなあ……」


「彼女の依頼を聞く代償として私達は逮捕されずにすむ」


「まあそうなんだけどね」


 私は今、人里に出没している熊退治に駆り出されている。

 色々な超越者が動いているらしい。

 私は、恭司と葵とのトリオだった。


 森の中を歩き始める

 その背後に、恭司と葵が続いた。


「超越者じゃなかったらこんな体験できなかっただろうな」


 恭司が、からかうように言う。


「したくもないけどね」


 私は苦笑して答える。


「しかし、なんで超越者が動員されているんだろう。これは、本来は人の仕事だ」


「……なにがあっても驚かないようにしておくべきかしらね」


「そうだなあ。用心に越したことはない」


「大丈夫ですよ。銃弾で頭をふっ飛ばせば一発だ」


 そう言って、葵は懐から拳銃を取り出す。


「そう簡単にいけばいいけどね」


 私は、祈るような思いでそう言っていた。



+++



 楓は相馬と炎使いとのトリオだった。

 夜の森を、炎が照らしていく。


「ねえ、相馬。ピザって十回言って」


「ピザ、ピザ、ピザ、ピザ、ピザ、ピザ、ピザ、ピザ、ピザ、ピザ」


「腕にあるのは」


「肘」


「つまんない奴」


 楓はぼやくように言う。


「熊、でしたっけ。超越者が出る幕でしょうか」


 炎使いが戸惑うように訊く。


「それがね、ちょっと不思議な情報があって」


 楓は、躊躇いながら口を開く。


「不思議な情報?」


「その熊、スキルを使うみたいなのね」


「熊の超越者?」


 炎使いは目を丸くする。


「そういうこと」


 楓は溜息混じりに言う。

 炎使いは素速く十字を切った。


「これも、意味があることなのでしょうか」


「世の中は、意味のあることばかりで構成されてないよ。沢山の無駄の中に価値があるものが隠れているのさ」


「翠達には伝えたのか?」


 相馬が、したり顔で語っていた楓に短く訊ねる。


「あ……」


 楓は、間の抜けた声を上げたきり、黙り込んだ。



+++



 ソウルイーターはパーカーのフードを目深にかぶり、夜の森の中にいた。


(うーん、各所から超越者の気配。やっぱ来たのは間違いだったかなあ)


 しかし、熊の持っているスキルというのはとても魅力的なのだ。


(厄介なのはあのお嬢さん達と光を扱う超越者だ。それ以外は餌と見ていい)


 そうは思うのだが、そんなことを考えてたら当たってしまう気がするのだ。最悪の敵と。


(まあ、俺は狩る側だ。狩られる側にまわることはねえ)


 そう思い、ソウルイーターは進む。

 その時、衝撃がソウルイーターの腹部を襲った。

 熱い血潮が腹にあいた穴から流れ出てくる。


「また会ったわね」


 呆れたような口調で小柄な女性が言う。手には、銃が握られていた。


「投降してください」


 炎使いが、複雑そうな表情でそう言う。

 ソウルイーターはしゃがみ込み、腹部に手をあてた。


「くっくっくっくっく……役者が足りないみたいだが?」


「彼女達は別働隊よ」


 小柄な女性はそう言って、ソウルイーターの頭を踏みにじり、地面に押し付け、銃を突きつける。


「で、どうする? 死ぬ? 投降する?」


「果たして、選択肢は二つしかないのだろうか」


 歌うようにソウルイーターは言う。


「あるじゃないか。抗う、という選択肢が」


 ソウルイーターは勢いよく立ち上がる。

 小柄な女性は吹き飛ばされ、空を飛ぶ男性にキャッチされる。

 鬼を吸収して以来、ソウルイーターの身体能力は人間の域を遥かに超えていた。


 そして、腹部の傷は治癒している。

 治療スキルを使ったのだ。


 ソウルイーターの周囲に複数の巨大な腕が作られ始めた。これは最強の矛であり、優秀な盾だ。


「それじゃあいっちょやりますか」


 小柄な女性は、そう言って腕を組んだ。

 男性が銃を構え、炎使いは迷うように手に炎を浮かべたり消したりしている。


 激戦が始まろうとしていた。



+++



「気配がする」


 歩美が、呟くように言う。


「そうね。気配がする。それも、濃厚な」


「超越者なら味方だろう?」


 恭司が、警戒している私達に戸惑うように言う。


「味方なら複数人で動いているはず。けど、気配は一つ」


 恭司が息を呑むのがわかった。


「ソウルイーターか」


「わからない。行ってみないと」


「この人数じゃ練ってた作戦は使えないぜ」


「けど、私は前より強くなっている」


 私は、自分を奮い立たせるように言う。


「負けるとは、限らない」


「行こう」


 葵が言う。その目は、真っ直ぐに前を見ていた。

 開けた場所に出た。虫の合唱が夜空に響いている。

 二メートルを超えるずんぐりとした巨体が、こちらを向いた。

 その頭には、角がある。

 角があるが、紛れもなく熊だった。


「月光である程度見える。下がって」


 そう言って、撫壁を召喚した恭司が前に出る。

 次の瞬間、熊の角から閃光が迸った。


「雷系超越者? あの子が、動物が、超越者だって言うの?」


「認めるしかないだろう。奴は進化した新種だ」


 熊は吠える。その角に、光が集まってくる。そして再び、それは迸った。

 周囲から焦げ臭い臭がする。

 しかし、それにも臆せず、葵は銃を構えて撫壁の影から出た。


 銃弾が発射される。そう思った時のことだった。

 熊が上体を下ろして突進を始めた。


 押された撫壁に吹き飛ばされ、三人は地面に倒れる。

 恭司は不手際をしていた。大地に撫壁を突き立てていなかったのだ。

 葵が悲鳴を上げた。銃を持つ手が噛まれている。


 その手から、銃が落ちた。


 私は手に剣を作り出し、熊の腕を断った。

 熊は数歩下がって、警戒の構えを取る。

 そして、その角に、また光が集まり始めた。


+++



 ソウルイーターとの戦いは、長期戦となった。

 あちらの周囲を取り囲む腕が邪魔をしてダメージが通らない。やっとのことで与えたダメージは全て回復される。


「今更綺麗事はやめろよ」


 ソウルイーターは、からかうように言う。


「狙えよ、ここを」


 そう言って、自分のこめかみを二度叩く。


「だってさ相馬」


「横からの射撃は無駄に等しい。まあ、前からの射撃も不意を突かなければ最終的に回復されてしまうのだがな」


「八方塞がりか」


「手は、あります」


 炎使いが口を開いた。


「彼は、大きなスキルと腕を使うスキルを同時展開できないみたいです。だから、私が炎の魔術を使えば……」


「そのプランで行こうか。終止符を打とう。この戦いに」


 炎使いは頷くと、手に炎を浮かべた。それが、みるみるうちに巨大になっていく。周辺の木が焼かれ、茜色を周囲に散らす。

 ソウルイーターは苦い顔になった。

 その目から、赤い光が消えた。


 ソウルイーターは撤退していく。

 楓はその背を狙おうかと考えたが、腕はソウルイーターの後をついていっている。


「とりあえずは勝ちかね」


「痛み分けだろう」


 相馬の淡々とした分析に、楓は少し苛立った。



+++



 熊との戦いは、徐々に形勢が私達側に傾きつつあった。

 角が光を貯めている間に剣で切る。


 角の光が貯まると、撫壁の影に隠れる。

 葵は、自分の服を破り、止血を完成させて休んでいた。

 こうやって、雷撃を回避しながら攻撃すれば、ゴールはいつかやってくる。


 熊が焦れたように、上半身を下ろし、突進の体勢を取った。

 私は撫壁の前に立ち、片手で熊の突進を抑えていた。


「人里はあなたの場所じゃない。住処へお帰り」


「勝手なことを言うな!」


 熊の言葉が、理解できた。

 手を介して熊の魂と接触しているからだろう。


「我々の親族は、人間の狩りや駆除で死んだものばかりだ。それでも人間は無尽蔵に住処を広げていく。我々はどうすればいい?」


 私は黙り込む。

 ぐうの音も出ないとはこのことだ。

 私の住んでいる町自体、山の木を切り開いてできたものだ。


「私は私の種族を守るために生まれた変異種だ。お前などに、負けはしない」


 角が光り始める。


「翠さん!」


 恭司が叫ぶ。

 どうする? 魂を吸収することは容易い。

 しかし、それでは後味が悪すぎる。


 その時だった。

 草むらをかき分けて何者かが走る音がした。


「いたか。ソウルキャッチャー」


 ソウルイーターが、嘲笑うように言う。

 そして、彼の放った火球が、熊を抑える私の腕に当たった。


 私は熊に押し倒される。

 ソウルイーターは、そのまま駆け去ってしまった。

 そして、私の喉元には、熊の口があった。

 近かった。

 唾液の匂いがわかるほどに。


 死ぬのか。こんなところで。そんな思いがある。


「天にまします我らが父よ、今、地上に落とされた力をお借りします」


 どこかで、聞いた声がした。

 赤い炎が迸ったかと思うと、熊が悲鳴を上げて上半身を起こした。

 そして、背中を地面にこすりつける。

 肉の焼ける臭いがした。


 そして、熊を取り囲むように炎の檻ができあがっていた。


「あなたの危機に間に合った。私は、主の恩寵を感じずにはいられません」


 そう言って、物陰から現れた炎使いのシスターは手を撚る。


(逮捕されたはずなのに、なんで……?)


 私は思わず戸惑った。しかし、命が助かったのは事実だ。

 炎の檻が曲がって、熊の角を断ち切った。


「随分と激戦だったようですね」


 そう言って、シスターはまた手を撚る。

 熊の腕が地面に落ちた。


「眠りなさい安らかに。残念ながら、ここはあなたの世界ではない」


 熊は悲しげに唸る。


「待って!」


 私は、思わず叫んでいた。


「共存、できるかもしれない。殺すのは、待って!」


「……」


 シスターは呆気に取られたように私を見たが、すぐに苦笑して、炎を消した。

 熊はうつ伏せになって倒れていた。

 その腕や、体中についた傷を、癒やし始める。


「一時的な施しを受けようと、我々の恨みは変わらんぞ」


「けど、あなたは、生きる場所を決める賢さがある。導いてあげて。あなたの種族を」


「お前達が森を削っていなければ、俺達も苦労はしていない」


 私は黙り込む。それは、事実だからだ。


「だが、命を助けられたことで借りができた。お前の言葉に従おう」


 熊はゆっくりと起き上がった。全身に傷は少し残っているが、致命傷はない。腕はくっついたが、角は溶けたままだ。


「雷撃のスキル、治療費として貰っておくね」


 そう言って、熊の魂の半分を埋めていた雷撃のスキルを奪う。

 熊は不満げだったが、素直に従った。


 そして、熊は帰っていく。山へと。

 いつしか、場所には楓と相馬が辿り着いていた。

 シスターは、葵の怪我の処置をしている。


「翠さん、スキルで治療してもらえますか? ひどい怪我だ」


「わかった」


 葵の治療を始める。


「それにしても、牢屋かと思っていたわ」


「私にも使い所があると思われたようです。全ては天の加護です」


「これで揃ったわね」


 楓が、高々とした声で言う。


「ソウルキャッチャー捕縛メンツが」


 氷使い、楓。

 飛行能力者、相馬。

 カイトシールド使い、恭司。

 炎使い、シスター。

 サイコメトラー、葵。

 そして ソウルキャッチャー、私。


 この六人が、楓が選抜したメンツだった。

 あとは、戦うだけだ。



第二十一話 完

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