歪み
「遠くの町に行きたいなあ」
というのが、節子の口癖だった。
「じゃあ県外の大学行くの?」
「そうなるかもねえ。髪の色も変えてイメチェンしてさ」
「節子は黒髪が似合う気がするけどな」
「まあね」
否定しない。自信があるのだろう。敵わないな、と思う。
「じゃあ、今日はちょっと遠くまで行ってみる?」
「いいね。力が続く限り行こう」
そして、私達は学校が終わると自転車に乗って走り始めた。
いつもの景色。
それが徐々に見知らぬ景色になって、歪んでいく。
目をこする。
視力がおかしくなったのだろうか。
風景がはっきりと見えない。
節子は平然と自転車を走らせていく。
そして、ついに町は途絶えた。
絶壁が私達の前に立ちふさがる。
その上を、節子は平然と走っていく。
私はブレーキを踏んで、落ちることを避けた。
「これは……?」
戸惑いながら、呟く。日本にこんな危険な道路はないはずだ。
「なにしてるのー、おいでよー」
節子の声がする。向かいについたようだ。
「ここがお前の限界。知識の果て」
その声は、頭上からした。
昨日の男が空から降りてきた。
「そろそろ思い出さないか? お前の真の目的を」
焦れったげに、男は言う。近場の高校の制服を来ていた。
その瞬間、私の脳裏に色々な情報が入り込んできた。
「そうか、私は、賢者の石を……」
「そう。それを求めて、俺達はソウルリンクをしている。まあ」
そう言って、男は苦笑する。
「中学校時代の節子を見れたのは役得だったがね」
もう節子の声はしない。
「一度、帰ろう。スタート地点からやり直そう」
そう言って、男、相馬は空を飛んでいく。
その後に、自転車で続いた。
第二話 完
次回『現実世界』




