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ソウルキャッチャーズ~私は一般人でいたいのだ~  作者: 熊出
第十七章 叫んだって嘆いたって戻れりゃしないんだ
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暴君節子

 授業中にうたた寝をして、目が覚めたら昼食の時間だった。


「館ー、ジャンプ買ってきて」


 声が教室に鋭く響く。

 館は逆らうことなく教室を出ていった。


「橘ー」


 声に呼び止められて、教室を出ようとしていた橘が足を止める。


「購買行くなら焼きそばパン買ってきて」


「あいよ」


 橘はそう言うと、廊下を出て行った。

 そして、暴君は上機嫌に右足と左足を交互に前後に振る。

 中学二年になるとこの光景も見慣れたものだ。


「相変わらずだねえ」


 私、山吹楓は、やや呆れ混じりに暴君である節子の向かいの席に座った。


「私も心苦しいんだけどねー。皆私の手伝いをしたいって言うからさー」


 そう言う節子は、黒のロングヘアー。黒色に白いラインの制服に、その髪はよく映えた。

 そんな美少女が、彼氏も作らず自分を頼ってくる。

 下心から指示に従う男も出てくるわけだ。


「恐いよー、男は。侮ってると噛まれるわよ」


「大丈夫。選別してるから」


 敵わないな、と思う。

 天性の才能が違うのだろうと思う。

 それに、彼女は色々と計算している。買ってこさせたジャンプは回し読みされて読みたい者全員に行き届くし、焼きそばパンは二度手間にならなくて済む。


「帰りどっかよってかない?」


「いいねえ。私サブウェイ行きたい」


「いいよ。よってこう。ついでにゲーセンも行きたいな」


「バスだったら楽だけど、チャリで少しは節約しなきゃだね」


「……金を譲ってもらったら流石に恐喝だよな?」


「超えちゃいけないボーダーラインの先にあるね」


 そう言って、私達は笑った。

 帰り、自転車に乗って二人で走る。

 道の両側には稲穂の波。それが日光を浴びて輝いているのがどうしようもなく美しいものに見えた。

 強風がふく。節子の髪が揺れる。


 そして、目的地に到着して私達は自転車を降りた。

 節子が歩いていく。

 その後に、私も続いた。


 そして、私は見知らぬ男に道を塞がれた。


「夢に浸るのも結構だが、本来の目的を忘れぬようにな」


「本来の目的……?」


「賢者の石だよ」


 男は苛立たしげに言う。

 ゲームや漫画でしか聞いたことがない単語だ。


「楓ー、なにやってんの!」


 節子の苛立たしげな声がする。


「すいません、私、行きます」


 そう言って、私は男の横を通り過ぎ、店内へ入っていった。

 その後、節子とはサブウェイを食べて解散した。

 家に帰る自転車の中で、男の言葉を反芻する。

 けど、意味がわからない台詞にしか思えない。


 車庫に自転車を置いて、家へ向かうと、三枝英治と遭遇した。


「修練は続けてるのか?」


 英治はからかうように問う。


「そっちは夢中って感じね」


「そりゃあそうだ。俺達が手に入れたのは世界を変える力だ」


「炎と氷。戦車にも勝てるかあやしいわね」


 私の言葉に、英治は犬のようにしょげて肩を落とした。


「いいよ。一人で修行するから」


「頑張れー」


 そう言って、その場を後にする。

 家のベッドに寝転がって、考える。


「本来の目的……賢者の石……」


 どちらも覚えがあるような気がする。

 けれども、その答えに辿り着くのを避けるように、睡魔がやってきて私を夢の世界へと誘った。

 晩御飯までに起きなきゃ。

 漠然とそう考えて、私は眠りに落ちた。



第一話 完

次回『歪み』

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