ドッペルゲンガー
「ということで、私の新スキル、ドッペルゲンガーです」
そう言って、楓に私と私のコピーを披露する。
「武装までコピーできますから、翠さんの力で私にスキルを積んでコピーとかもできるでしょうね」
「それは有用ねえ」
楓は腕を組むと、感心したように言う。
「けど、あんた本体が未熟だからそんなに役に立たないんじゃない?」
「それはこれからの師匠との特訓で埋めていくつもりです!」
私は憤慨しつつ言う。苦労して得た新スキルだ。少しぐらい褒めてくれたっていいではないか。
「それに師匠は言うんですよ。私の才は師匠以上だって」
「それ、さつきにも言ってた」
「……あの人、自分を低く見積もる癖でもあるんですかね。あんな才、ゴロゴロいるわけないのに」
「どうでしょうね。結果は、これからのあなたが出していくしかないでしょうね」
「はい!」
私は、胸を張って答えた。
「で、あんた、振られたんだって?」
容赦ない一言が私の胸をえぐる。
「なんでそれを……」
「アラタって律儀でね。報告書が凄い丁寧なのよ」
「誤魔化し効かないんだもんなあ……」
「ドリンクバー付きのファミレスで愚痴なら聞くわよ」
「酒の肴にしようとしてますね?」
「悪いか?」
「今度私のドッペルゲンガーが狙うとしたら楓さんだと思いますよ。わりかし本気で」
「恐い、恐い」
そう言って楓は微笑むと、自分の机に向き直った。話は終わりということだろう。
「この力を使って、社会貢献します。それが私の罪滅ぼしです」
「ん、それでいいよ。あんたもアラタも真っ直ぐすぎてたまに心配になるけどね」
「ありがとうございます!」
楓はペンの先で私を指す。
「そういうとこよ。行ってよし」
私は一礼すると、対策室の出口へと歩き始めた。
ドッペルゲンガーが囁く。
「で、私を飼いこなしきれるかしら?」
(自殺する気はないわ)
私はそう言い返して、胸を張って外へと歩いていった。
きっと、好きでい続けるだろう。彼への恋を忘れないだろう。
それでいい。その痛みも、もう私の胸の一部だ。
私の恋は、まだ終わってはいなかった。痛みが、忘れさせてはくれなかった。
その日、私は美容院で、もう一人の私に斬られた髪を整えた。
髪型を変えて、少しすっきりしたような、寂しいような気持ちで、空を見上げながら前へと進んだ。
第十六章 完
今週の更新はここまでです。




