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ソウルキャッチャーズ~私は一般人でいたいのだ~  作者: 熊出
第十六章 園部勇気は恋との上手な付き合い方を知りたい(第三部最終章)
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二人の園部勇気

 待ち合わせ場所は古城跡地の中央にある原っぱ。

 夜になれば人がいない場所だ。


 決闘の決意は相手に伝わっているだろう。

 なにせ、相手は私なのだから。


「恋愛でも戦闘でも敗残した兵がおめおめと」


 つむじ風と共に現れたかと思うと、彼女は月明かりの下で笑った。


「ええ。けど、自分のケリは、自分でつけるわ。あなたは私が産み出したモンスター。私が手を下すしかない」


「そしてまた、自分の感情に蓋をするのね。繰り返しよ。きりがないわ。分裂は新たに芽生えたあなたのスキルなのだから」


「百が生まれるというなら百を殺しましょう。私には、その覚悟がある」


「ふうん。百一じゃないってあたり甘えてるわね、あなた」


「被害が増えたら考えるわ」


 自殺。あんまり考えたくない方法だ。

 巴や翠ならなんとかしてくれるかもしれない。

 しかし、とりあえずは、一を処理しなければならない。


 私達は刀を鞘から抜いて、両手で握ると、ぶつけあった。

 自分を相手にして、思う。


(癖、強いな……!)


 アラタ流剣術の肝は見にある。相手の癖を利用できるなら利用して潰していく。

だから、最初、彼女はアラタの剣術を真似て本性を隠していたのだろう。

 そこに、癖の強いフォームできた。

 そのフォームなら私を倒せるという自信があってのものだ。


「癖を突くのを諦めたでしょう」


 もう一人の私が嘲笑うように言う。


「無駄口叩けなくしてやるって考えてるのよ!」


 私は言って、剣で相手を突く。

 それを演舞のように躱した相手に、頭部を斬られた。

 骨に達するような傷は避けた。しかし、髪が何本も斬れて、大地に散っていった。


「惨めな姿。恋の敗残者の姿ね」


 嘲笑うように彼女は言う。そして、言葉を続けた。


「私は諦めないわよ。全員殺してでもあの人を手に入れる」


「……あんたが私から出てきたって事実。反吐が出るわ」


「劣勢はあんただけどね。コピーが本家を超えちゃうわね。いいのかしら」


 そう言って、彼女は小さく笑う。


「初めから引け腰なら勝てるものも勝てまい」


 声が響いた。

 男の人の声だ。

 聞いてるだけで苦しくなってくる声。


「師匠。来たんですか」


「ああ、来た。弟子のピンチだからな」


「これは、私の勝負です。私が決める」


「……わかった。見ているに止めよう。ただ、お前が死にそうな目にあえば……」


「師匠らしいなあ」


 私は苦笑して、剣を持つ手を下ろして上半身を上げる。

 相手が隙ありと襲い掛かってくる。

 そして、もう一人の私は、必勝を確信して剣を振り下ろした。


「師匠のそういうとこ、愛してますよ」


 もう一人の私の目が見開かれる。

 彼女は、不安に震えるようにアラタを見た。

 アラタは、平素のままの表情でいる。


「俺には響がいるから無理な話だな」


「いいんです。一方通行な愛が駄目だと誰が決めました」


「そんな。そんな茶番ですっきりしたふりをして! 違うでしょう? あなたは、もっと!」


 叫びながらも、もう一人の私は分解されていき、私に吸収された。


「すっきりしたか?」


「ええ」


「俺、モテ期かもしれないけど無駄にしてると思うか?」


「浮気は男の甲斐性だって言葉もありますけどね」


「よしてくれよ」


 アラタは苦笑する。


「私は庭を掃きながら待ってる響さんを裏切る我はありません。どうか、今まで通りでお願いします」


「ん、わかった。流石は俺の弟子だ」


 そう言って、アラタは立ち上がった。

 そして、ポケットに手を入れて歩いていく。


「奮戦した弟子にジュースぐらい奢ってくれますよね?」


「調子に乗るな」


 そう言って、アラタが私の頭を小突く。

 そうだ、この距離感でいいのだ。

 それだけで、私は幸せでいれる。

 例え、この恋が成就しなくとも。



第十話 完

次回『ドッペルゲンガー』

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