二人の園部勇気
待ち合わせ場所は古城跡地の中央にある原っぱ。
夜になれば人がいない場所だ。
決闘の決意は相手に伝わっているだろう。
なにせ、相手は私なのだから。
「恋愛でも戦闘でも敗残した兵がおめおめと」
つむじ風と共に現れたかと思うと、彼女は月明かりの下で笑った。
「ええ。けど、自分のケリは、自分でつけるわ。あなたは私が産み出したモンスター。私が手を下すしかない」
「そしてまた、自分の感情に蓋をするのね。繰り返しよ。きりがないわ。分裂は新たに芽生えたあなたのスキルなのだから」
「百が生まれるというなら百を殺しましょう。私には、その覚悟がある」
「ふうん。百一じゃないってあたり甘えてるわね、あなた」
「被害が増えたら考えるわ」
自殺。あんまり考えたくない方法だ。
巴や翠ならなんとかしてくれるかもしれない。
しかし、とりあえずは、一を処理しなければならない。
私達は刀を鞘から抜いて、両手で握ると、ぶつけあった。
自分を相手にして、思う。
(癖、強いな……!)
アラタ流剣術の肝は見にある。相手の癖を利用できるなら利用して潰していく。
だから、最初、彼女はアラタの剣術を真似て本性を隠していたのだろう。
そこに、癖の強いフォームできた。
そのフォームなら私を倒せるという自信があってのものだ。
「癖を突くのを諦めたでしょう」
もう一人の私が嘲笑うように言う。
「無駄口叩けなくしてやるって考えてるのよ!」
私は言って、剣で相手を突く。
それを演舞のように躱した相手に、頭部を斬られた。
骨に達するような傷は避けた。しかし、髪が何本も斬れて、大地に散っていった。
「惨めな姿。恋の敗残者の姿ね」
嘲笑うように彼女は言う。そして、言葉を続けた。
「私は諦めないわよ。全員殺してでもあの人を手に入れる」
「……あんたが私から出てきたって事実。反吐が出るわ」
「劣勢はあんただけどね。コピーが本家を超えちゃうわね。いいのかしら」
そう言って、彼女は小さく笑う。
「初めから引け腰なら勝てるものも勝てまい」
声が響いた。
男の人の声だ。
聞いてるだけで苦しくなってくる声。
「師匠。来たんですか」
「ああ、来た。弟子のピンチだからな」
「これは、私の勝負です。私が決める」
「……わかった。見ているに止めよう。ただ、お前が死にそうな目にあえば……」
「師匠らしいなあ」
私は苦笑して、剣を持つ手を下ろして上半身を上げる。
相手が隙ありと襲い掛かってくる。
そして、もう一人の私は、必勝を確信して剣を振り下ろした。
「師匠のそういうとこ、愛してますよ」
もう一人の私の目が見開かれる。
彼女は、不安に震えるようにアラタを見た。
アラタは、平素のままの表情でいる。
「俺には響がいるから無理な話だな」
「いいんです。一方通行な愛が駄目だと誰が決めました」
「そんな。そんな茶番ですっきりしたふりをして! 違うでしょう? あなたは、もっと!」
叫びながらも、もう一人の私は分解されていき、私に吸収された。
「すっきりしたか?」
「ええ」
「俺、モテ期かもしれないけど無駄にしてると思うか?」
「浮気は男の甲斐性だって言葉もありますけどね」
「よしてくれよ」
アラタは苦笑する。
「私は庭を掃きながら待ってる響さんを裏切る我はありません。どうか、今まで通りでお願いします」
「ん、わかった。流石は俺の弟子だ」
そう言って、アラタは立ち上がった。
そして、ポケットに手を入れて歩いていく。
「奮戦した弟子にジュースぐらい奢ってくれますよね?」
「調子に乗るな」
そう言って、アラタが私の頭を小突く。
そうだ、この距離感でいいのだ。
それだけで、私は幸せでいれる。
例え、この恋が成就しなくとも。
第十話 完
次回『ドッペルゲンガー』




