園部勇気は知らないふりをする
もう一人の私は、アラタに顔を見られたことにショックを受けたように、姿を消してしまった。
私はその場に倒れ込む。
アラタが、腹部に手を当てて治癒スキルを使ってくれた。
ぬるま湯に浸かっているような心地よさの中で、傷の痛みが徐々に和らいでいく。
「さっきのあれは、お前とよく似ていたが、どういうことだ?」
私ははっとする。
全てを話せば、彼に抱いている恋心がばれてしまう。
「原因は、わかりません。私の心が作った何かが、暴れまわっているようです」
「ソウルリンク状態じゃないだろうな」
アラタが心配するように言う。
「そしたら、あいつが刀を手で握った時に私の手も怪我してますよ」
「……それもそうだな」
そう言って、アラタはあぐらをかいて考え込む。
そのうち、傷がなくなったという実感があった。
「師匠。もう大丈夫です」
「念のため、もうちょっと寝とけ。疲労も回復するし得だぞ」
「便利ですね、治癒スキル」
「借り物だけどな。借りパクしても良さそうな空気だから甘えてる」
「翠さん、貯蔵スキル多そうですもんね」
「実際俺が持ってる方が便利な気もするんだよな。ダメージに強いし」
「開き直ってる」
私が笑うと、彼は私の頭を小突いた。
胸が高鳴る。
恋をしていた。恋をしている。
ただこれだけのことで、私は幸せを感じている。
考えないようにしてきた。
意図的に意識を逸してきた。
ならば、決着は私がつけるのが妥当だろう。
たとえそれが、自分の死に繋がるとしても。
私は、自分自身と決着をつける覚悟を決めた。
この、愛しいアラタのためにも。
第九話 完
次回『二人の園部勇気』




