園部勇気は援護を図る
斎藤翠はトイレで三度胃の中のものを吐いた。
三度目は、セレナが心配そうにタオルを持って見ていた。
ありがたくタオルを受け取り、口元をふく。
「また、悪い夢、見たの?」
セレナが不安げに言う。以前感じたような圧倒的な魔力は感じない。その代わり、表情が柔らかくなったように思う。
「ちょっとね。私は二人、剣で手にかけている。どっちも悪党だ。生きててもろくなことはしなかっただろう。わかってはいる。理屈ではわかってはいるんだけど……手にこびりついた感触は消えてはくれない」
「お母さんは優しすぎるね」
セレナは苦笑交じりに言う。
「私なんて二人を吹っ飛ばしたけど気にしてないもん」
「それは、あなたが命令で動いていたからだわ」
翠は、セレナの頭を撫でる。
「人を傷つけることだけはやめなさい。悪く言うのもやめなさい。害をなせば害は形を変えて返ってくる。それが私の短い人生経験で得た教訓」
「難しい話だけど、わかったことにしとく」
「いずれ、わかるわ」
そう言って、翠は苦笑した。
+++
アラタと黒い霧の女の戦いは、アラタが優勢な状態で進んだ。
相手は既に、腕と足に重症をおっている。
響が警察を呼んでいるし、囲まれるのはすぐだろう。
「驚いたな。在野に人材というのは転がっているものらしい」
アラタは感心したように言う。
「敵を褒めるか」
「ああ。お前が味方になってくれれば、俺達の仕事も随分楽になるだろう」
女は黙り込む。
「来ないか? 一緒に」
そう言って、アラタは手を差し出す。
「それがあなたの甘さよ、アラタ」
そう言った次の瞬間、霧がアラタの視界を奪った。
大振りで振り下ろされた刀を、アラタは引いて躱す。
「二人がかりで行くぞ、勇気!」
「はい!」
そう言って構えた私だが、その時には敵の姿はなくなっていた。
「……消えちゃいましたね」
「ワープスキル持ちか。ますます厄介だな」
アラタはそう言って、溜息を吐いた。
第四話 完
次回『園部勇気は他校に入り込む』




