園部勇気の日常における変化
「やあ」
早朝のアラタ邸に行くと、ウォーキングルックに身を包んだ響が立っていた。
「傍にいたほうが安心だろうからな。一緒に行動してもらうことにした」
そう、アラタは淡々と言う。
ついてこれるかな、と思う。
「よろしくお願いしますね」
「こちらこそ。守って貰う立場だから、小さくなってるわ」
そう言って、響は微笑む。
笑顔の多い人だな、と思う。
いや、きっとこの人は、この家の生活で、笑顔の多い人になったのだと思う。
二人の絆を見せつけられた気がして、私の心は多少荒んだ。
そして、走り始める。
「それにしてもなんだったんだろうな。身を隠すためだけに霧のスキルなんて取るかね」
言われてみればたしかにそうだ。
「相手の視界を防ぐ風にも使えるかもしれませんよ」
「心眼の使いどころだな」
「なんです。また新技思いついたんですか?」
「いやな、五感を滅茶苦茶にされた経験があってな。その時、神経を研ぎすませて相手の太刀筋を読んだ。三度中二度は避けた」
「相変わらず師匠の土壇場における強さって人外じみてますね……それにしても」
響に視線を送る。
「バテませんね」
響は苦笑顔になった。
「鬼を吸収したことがあってね。大半は兄に取られちゃったけど、残滓が残ってるのよ」
そう言って、響はペースをあげる。
「守られてるばかりじゃないのよ……それじゃあ、いけないのよ」
覚悟を決めたように、響は言った。
アラタもペースを上げる。そして、響の頭を撫でた。
響が自分だったら、どんなに幸せだろう。
そんなことを、つい思ってしまう。
その時、前方に黒い霧が現れて、三人は歩みを止めた。
「王剣、アラタ。相手にとって不足はない」
黒い霧の女性は、くぐもった声で言う。
「勝つつもりかよ」
「相打ちできれば上等ぐらいかな」
「それでも立ち向かうか」
「愚問」
そう言って、相手は剣を構えた。
似ている。
アラタが硬直したのがわかる。
相手の構えは、アラタによく似ていた。
決戦が、始まろうとしていた。
第三話 完
次回『園部勇気は援護を図る』




