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ソウルキャッチャーズ~私は一般人でいたいのだ~  作者: 熊出
第十五章 偶像症候群/RPGなんて懲り懲りだ
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超能力者は君だけじゃないんだよ

 真千子の声は圧倒的だった。

 他の三人がラストにまわすのもわかる。

 圧倒的な高音に、周囲は引き立て役に回るしかない。


 そして、拍手の中で、コンサートは終わった。

 僕はベッドからずり落ちた状態で目が覚めた。


(夢だったのか? いや……)


 僕の手には、ペンライトが握られていた。

 ドリームチケットのライブで貰ったものだ。


(どういうことだ?)


 僕は考え込んで、結局結論がでなくて首をひねった。

 学校へ行くと、真千子が話しかけてきた。

 赤フレームの眼鏡とアップにした髪は変わりない。


「どうだったー? 昨日の夢」


「……お前が歌ってた」


 そうと返すしかない。


「あっはっは。私も捨てたもんじゃないでしょ」


「うん、そうだな。綺麗だったよ」


「もっと褒めていいよ」


「調子に乗るな」


 そう言って、真千子の額をデコピンする。


「これからも来てくれるよね」


 僕はしばし考え込んで、溜息を吐いた。


「あれはお前達のスキルなんだな」


「超能力者は君だけじゃないんだよ」


「いいよ。睡眠は睡眠でしっかりとれたみたいだしな」


「やった。ありがとね」


 真千子はそう言うと、去っていった。


(人の趣味ってわかんないもんだなあ……)


 アイドルの格好して歌う趣味があるとは思わなかった。

 しかし、それ以上に上手かった。


 学校が終わると、何故か真千子がついてきたがったので教会に共に進む。

 そして、辿り着いて自転車に施錠すると、中に入った。


「水月ー、暇かー」


「一段落ついたとこ」


 そう言って、水月は座ったまま振り向いて手をひらひらと振る。


「紅茶でも飲もうか」


「俺が用意するよ」


 そう言って、三人で奥に入っていく。

 勝手知ったる他人の家。僕は手際よく紅茶を入れた。

 そして、三人で向かい合って紅茶を味わった。


「夜泣きの多い子でねえ。元気な子でやりがいがあるわ」


「水月、今のうちに寝ときなよ。俺が面倒見てるよ」


「おかしくない?」


 真千子が珍しく、批判的な意見を述べる。


「だって、神楽坂はその人の伴侶でも親戚でもないんでしょ? 赤ちゃんの面倒を見るなんて、変だよ」


 水月が苦笑する。


「親戚、みたいなもんではあるけどね」


「なにをしようと俺の勝手だよ。俺は水月を手伝う。そう決めた」


 僕がそう断固として言うと、真千子も納得せざるをえなかったようで、黙り込んだ。


「今日、私、帰るね。お邪魔みたい」


「そんなことないわよ」


 水月が苦笑交じりに言う。

 真千子は鞄を持って席を立つ。

 そして、本当に出ていってしまった。


「なんだあれ」


 僕は思わずぼやく。


「葵くんは、もっと女性の扱いが上手くなるべきだね」


 そう言って、水月は苦笑顔のまま紅茶を一口飲んだ。


「……俺が悪いの?」


「端的に言えばそうだね」


 水月は面白がっているようで、模範的な解答を教えてはくれなかった。




+++




 その夜、僕はなんとなくドリームチケットを枕の下に置いて寝た。

 これ以上真千子を怒らせたくなかったのもある。

 あのコンサートの熱気にあてられているのかな、と思う。

 私服で意識が落ちるのを待つ。

 そして、僕は夢の世界へと足を踏み入れていた。


「おい! おい! おい! おい!」


 会場全体が一心になってコールしている。


「おう、また来たか、少年」


 ペンライトをくれた男性だ。


「まあ、付き合いもあって」


「……これから爆発的に増えてくんだろうなあ。ドリームチケット購入者」


「六桁いきますかね」


「いくと思うぜ。さ、楽しもう」


 そう言うと、男は前を見て叫んだ。


「ユーコ、可愛いよー」


 聞こえたらしく、少女はウィンクをして返す。

 そして、今日も終わりの時間がやってきた。


 真千子がセンターに立つ。


「今日は、新曲を披露したいと思います」


 会場が喝采で包み込まれる。


「タイトルは、疾走」


 曲が流れ始める。


「走っていた、君の後ろ、掴める日がくる、信じていた」


 真千子の高音が響き渡る。

 いいメロディラインだ。僕はペンライトを振るのも忘れて感心してしまった。


「置いてかないで、ねえ。掴めない場所に行かないで、ねえ。私は君を、好きなんだよ」


 真千子は歌い続ける。

 そして、歌い終えた。

 会場は大喝采だ。


 僕は、もやもやした気持ちでいた。

 今の曲は、まさか、僕に向けたものか?


「さて、本日はラストイベントがありまーす」


 そう、少女の一人が手を挙げる。

 一人の座席が上がっていって、降りれなくなった彼は狼狽している。


「彼はドリームチケットの転売をしていた男です。ドリームチケットはご周知の通り制作に時間がかかるので、この人が大量に抱え込んでいるせいで流通が滞っている形です。人の褌で大金を掴み取ろうなんてゲスいですね」


 そう言った少女の手には、銃がある。

 銃と言っても、子供向けアニメに出てくるような可愛らしいものだ。

 少女は男を狙うと、引き金を引いた。


 光が走る。そして、男はこの世界からいなくなっていた。


 なんなんだ……?

 僕は戸惑うしかなかった。



+++



「や、神楽坂」


 そう言って、放課後、真千子が訊ねてきた。


「俺もう帰るぜ」


「たまには話し相手になってよ」


 そう言って、真千子は俯いて足首を回し始める。

 あの歌を、思い出した。

 遠くへ行かないで。


「あの、えっとだな」


「うん」


「お前と話す時間も俺にとっては大事だよ」


「うん」


「だから、一緒に教会に来てほしい」


 真千子は溜息を吐いた。


「歌じゃ駄目かぁ、神楽坂には」


 そう言って、彼女は去っていく。

 やはりあれはそういう意図があってのことだろうか。僕は、戸惑っていた。



第三話 完




次回『破綻』

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