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ソウルキャッチャーズ~私は一般人でいたいのだ~  作者: 熊出
第十四章 離れれば寂しくて、近づけば痛くて(第二部最終章)
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後日談

「最後までいれたね」


 そう言って、教会の前で出迎えてくれた水月は少し寂しげに微笑んだ。


「本当は、もっと傍についていてあげたい。けど、時間ももうそんなにないみたいだ」


 青葉はそう言って、水月を抱きしめる。


「未来で待ってるよ」


「子供と、ゆるゆる進んでいくわ」


「ああ。強い子に育ててくれ」


 そう言うと、青葉は気配を察知して、水月を離した。

 背後には葵がいる。


 今のシーンを見られたか。なら、もう明かすしかあるまい。

 青葉は、サングラスを取った。

 葵は唖然とした表情をした後、脱力したように苦笑した。


「後を、頼んだ」


 それが、青葉がこの世界に残した言葉だった。

 サングラスが、地面に落ちた。



+++



「まったく窮屈でかなわんかったわ」


 病室での島津老の第一声がそれだった。


「すいません。僕は、あなたの息子の仇ということになります」


 そう言って、アラタと響は頭を下げる。


「いや。よくやってくれた。君達は、世界を守ったのだ」


 そう、島津老は寂しげに言った。


「今度、道場にこんかね」


 島津老は、そんなことを言う。

 アラタは戸惑った。


「僕には自分の剣の型があるから、習うことはできないと思いますが」


「勝負じゃよ」


 そう、島津老は悪戯っぽく微笑んだ。

 アラタは言葉を失う。


「老いたワシにあわせた島津流剣術はお主に通用せんかった。体と経験に不一致があった。なら、ワシ自身が戦えばどうなるかな」


 アラタは苦笑した。


「島津さんは長生きしますよ。多分ね」


「おうよ、百まで生きる気だ」


 島津老の笑い声が部屋に響き渡った。




+++




「アメリカの調査結果によると、施設の存在は確認できたが、そこには誰一人いなかったそうよ」


「そうですか……」


 超越者対策室の楓の席で、私は報告を聞いていた。


「なんとも灰色の解決だわね」


「けど、私はもう、ゲートを開こうとする人なんていないと思うんですよ」


「なんでだい、天衣無縫」


 異名で呼ばれて少し気恥ずかしい。


「メリットがないじゃないですか」


「軍需産業は儲かるだろうけれどね」


「あ、そっか……」


「もうこんな事件は当分はいいわ。疲れた。二連続でこれだ」


「そうですね。二度と起こってほしくないです」


 楓も私も苦笑交じりに言う。


「エレンちゃんは……」


 私の問に、楓は物憂げな表情になった。


「食事も薬もきちんととってる。けど、精神的に沈んでいる。抗うつ剤の投与も考えられてるわ」


「そうですか……」


「けどね。将来の夢もあるらしいわ」


 楓の表情が緩んだ。


「どんなですか?」


「自分のように薬で苦しむ人を助けたいって。案外、社会復帰は早いのかもしれない」


「それは、いいことですね」


「あんたはどうだい。一人が二人になって」


「片付けを知らない子なので、みっちり躾けてます」


「一端の母親だね。水月の次はあんたか。私も相手探すかなあ……」


「相馬さんちに行けばいいのでは?」


「冗談」


 一笑に付された。


「じゃあ、聞きたいことは聞いたので、私は行きます」


「ああ。今回もご苦労様。ソウルキャッチャー。しばらくは、前の職場に戻っていいよ」


「私は正義のヒーローです」


 私は、決意を込めて言う。


「次の事件に備えますよ」


「まあ体力維持は大事だからねえ。そんじゃあね、ソウルキャッチャー」


「はい!」


 私は警察署を出て、車に向かった。

 それに、駆け寄ってくる人物がいた。

 セレナだ。

 セレナは私に抱きついてきた。

 その頭を撫でる。


「お母さん。話は終わった?」


「うん。エレンちゃんの話も聞いてきたわ。手紙も預かった。おいおい話すね」


「うん」


 セレナは微笑んで頷く。


「お母さん、大好きだよ」


 こんな風に感情表現が豊かなのが海外風なのだろうか。

 そんなことを思いながら、私はセレナに手を引かれながら歩いていった。

 夏の日光が、地面を激しく照らすある日だった。


「不思議な感じね。傍にいたら喧嘩ばかりなのに、手紙だともっと話したいと思っちゃう」


 車の助手席で、セレナはつぶやいた。


「離れれば寂しくて、近づけば痛くて、か……」


 私は、つい呟く。そのフレーズは、最近水月が使っていた言葉。


「案外そういうもんなのかもねえ」


 セレナは戸惑うような表情をしたが、手紙に視線を落として微笑んで黙読した。

 その姿は、どこにでもいる少女そのものだった。



第十四章 完

今週の更新はここまでになります。

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