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ソウルキャッチャーズ~私は一般人でいたいのだ~  作者: 熊出
第十四章 離れれば寂しくて、近づけば痛くて(第二部最終章)
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ヒーローは颯爽と戦地に赴く

「狙撃しとくべきだったな」


 相馬が、淡々とした口調で言う。

 楓は、歯ぎしりした。


 私は目の前の巨大な結界に圧倒されていた。

 どんな結界なのか、見当がつかない。


 結界の中からは、打撃音のような音が時たましている。


「思うように動けないだろう!」


 武豊の叫び声がする。


「この結界は侵入者の認識を狂わす結界。左へ避けたはずが右へ進む。後ろへ進んだはずが左へ進む。隣りにいると思ったら遠くにいる。完全に認識は狂う。

今、君は私の位置すら把握できていないのだ!」


 背筋が寒くなった。

 そんな結界の中で、範囲攻撃でも放とうものなら、ダメージを受けるのはこちらだ。


「……楓、決断を」


 相馬が促す。

 楓は、爪を噛んで黙り込んでいた。


 私はその時、妙案を思いついていた。


「私が行きます」


「対策はあるの?」


「ええ。私の魂は一つではないから」


「……任せるわ。結界を壊せるアラタくんが内部に囚われている以上、打てる手はない」


「本当に、大丈夫なのか?」


 恭司が言う。


「まかせて。多分大丈夫だと思うから」


 そう言って、私は恭司に手を振ると、結界の中へと入った。

 血の匂いが鼻についた。


 アラタはしゃがんで、回復しつつ剣を握っている。

 その、右後方からの攻撃を、前方に回転して避けた。


「来たか、天衣無縫! 同士討ちというオチも面白かろうな!」


 武豊が嘲笑うように言う。


「じゃあ、頼むわよ。歩美」


 そう言うと、私は脱力した。そして、体のコントロールを手放した。

 しかし、体は倒れない。


「人使いが荒いったら」


 私の口が、勝手に言葉を紡いだ。

 そう、今私の体を動かしているのは、浮遊霊の歩美なのだ。


「魂が、入れ替わった……?」


 武豊が、戸惑うように動きを止める。


「風……空気。地面の湿気。仄かに滲む汗。そうか、肉体があるってこんな感じなんだ」


 そう言って、歩美は地面を何回か蹴ると、駆け出した。


「この認識を狂わせる空間で走り回るとは、愚かなことだな!」


 武豊が言う。

 しかし、歩美は真っ直ぐに武豊に向かっていた。

 武豊の形相が変わる。


「な、何故?」


「私は幽体。自分も他人も魂で認識している。距離が離れたか近づいたか、全部わかるわ」


「ソウルキャッチャー……!」


 武豊は空へ逃げようとする。

 その腹部へ、歩美は光の剣を叩き込んだ。

 武豊の口から血が溢れる。


 そして、結界が崩れていった。雲の隙間から光がさす。


「太陽。日光……そうか。これが…人の尊いと思うもの」


 歩美はそう呟いて、武豊を地面へと放り捨てた。


「ご苦労様、歩美。後は私がやるわ」


「わかった。外に出られて、楽しかったよ」


 歩美はそう言って、引っ込んでいく。

 武豊の手から光の腕が伸びる。

 私は、それを光の剣で断った。


 武豊は腹に光を当てながら剣を構える。

 私達は空中で幾重も剣を重ねた。


「何故縛られし弱者の味方たらんとしない! 我々超越者がゲートから来る魔物を退治する上位種になるチャンスなのだぞ!」


「大勢の人々が、今の毎日を望んでいる! あんたの夢はそれを壊すものだ! 許すわけにはいかない!」


「なら、研究材料となっている人々はどうする?」


「……救ってみせる!」


「無理だね。君はアメリカではアウェイだ。何故わからない? 君も、私も、今の社会では弱者だと!」


「けど、アメリカではアメリカで頑張ってる人々がいる! 皆が諦めない限り、私は折れない!」


 私の放った炎が武豊の腹に当たる。

 その痛みで、集中力が消えたようだ。

 武豊は、地面に落下した。

 その前に、降りる。


「お互い、出せる策は十分に出した」


「……ああ、そうさな」


 武豊は放心したように言う。


「終わりだ」


 武豊は、目を閉じた。

 エレンの泣き声が、しばらく響いていた。




第十話 完



次回『後日談』

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