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ソウルキャッチャーズ~私は一般人でいたいのだ~  作者: 熊出
第十四章 離れれば寂しくて、近づけば痛くて(第二部最終章)
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立ちはだかる結界

 時間は少し遡る。

 特務隊は雑魚を蹴散らし古城跡地の中心の原っぱまで来ていた。

 そこで待っていたのは、巨大な赤い半円だった。


「結界……?」


 そう言って、指で結界の端を小さく突く。


「中に入ると傷つく類のものではないみたいね。どうする?」


「行くしかあるまい」


 そう、リーダーの五十嵐慎吾は言う。

 レーザーの超越者で戦いの熟練者でもある。

 四人は、結界の中へと入っていった。


 中央に、島津武豊が微笑んでいた。


「悪いが、一気にいかせてもらう」


 そう言って、慎吾は手を前に差し出す。

 その手からレーザーが発射され、パートナーの配置した鏡に照らされ乱反射する。

 そして、腹を貫かれて慎吾は口から血を吐いた。


「なに……?」


 傷は焦げている。それはまるで、今自分が放ったレーザーが腹をえぐったかのようではないか。


「一時撤退!」


 歴戦の勘からこれは危ないと思った慎吾は、そう叫んで背後へと移動した。

 そして、気がつくと武豊に近づいていた。


「な……」


「ようこそ、私の結界へ」


 武豊は微笑みを崩さない。



+++



「なんだ? これは」


 古城跡地中心の原っぱに到着した楓と相馬が戸惑うように言う。

 目の前にあるのは赤い半円。原っぱを覆う広さだ。


「結界の類です」


 先に到着していた青葉が言う。


「指先で触れたのですが、違和感のようなものがあった。しかし、即死系スキルではないようですね」


「アラタの到着を待っているところだ。あいつなら、結界ごと斬り裂けるからな。俺の剣は範囲攻撃スキルないし……」


 そう、恭司が言う。

 遅れてやってきた翠と大輝にも、同じ説明をする。


「あんま悪いもののような感じはないけどな」


 この中で一番勘の鋭い相馬が言う。

 最後に、エレンを運びながらアラタとセレナがやってきた。


 セレナはエレンを抱き抱え、その手を握っている。

 アラタは簡易的な説明を受け、納得したように手に長剣を呼び出した。


「溜めに、少しかかります」


 その瞬間、結界が弾け飛んだ。

 全員がアラタの顔を見る。


「いや、俺、まだなにもしてないですよ」


 アラタが慌てたように言う。


「私が自ら結界を解いたのだよ」


 そう、武豊がいる。その横には、光が渦を巻いている。完成しかけているゲートだろう。


「提案がある」


「聞こうじゃないの」


 楓が、腕を組んで返事をする。


「アラタくんの武器でゲートが傷ついては困る。しかし、君達は結界がどんなものかわからなくて手をこまねいている。そこでどうだろう結界なしの。一対一で勝負をつけるというのは」


「随分と都合のいい話ね」


「信じられないかい? アラタくんを」


 アラタの表情は、ヘルメットに隠されていて見えない。


「アラタくん。才気溢れる人間だ。私の父に肉薄するかもしれないね」


「何故、それがわかる?」


 アラタの声に、苛立ちが混じった。


「喰ったのか。自分の親を」


 武豊は微笑んで答える。


「さて、どうかな」


「俺、やります」


 そう言って、アラタは進んでいく。

 楓はしばし迷ったが、そのうち一つ溜息を吐いた。


「任せた」


「ええ」


 そして、アラタと武豊は、古城跡地で対峙した。

 武豊が日本刀を手に取り、鞘を捨てる。

 そして、構えた。


 凄まじい圧迫感が周囲を覆う。

 しかし、アラタは動じていない。自然体の姿で、相手の動きを待った。


「いくぞ!」


 武豊が駆け出す。

 アラタは剣を構えた。

 そして、武豊の振り下ろしの攻撃を、剣で受ける。


 その瞬間にアラタはしゃがみ込み水面蹴りを放った。

 それを跳躍して飛び越えて、武豊はアラタのヘルメットへと剣を走らせる。


 アラタは即座にそれを防いだ。

 そして、両者は距離を取る。


 見ていて息が詰まりそうな戦いだ。

 そして、剣戟が繰り広げられる。

 アラタの体に、傷が増えていく。


 しかし、体の動きに影響があるようなダメージは受けていない。

 アラタは見の体勢にある。楓はそう感じた。


 そのうち、アラタの剣が武豊の横っ腹を斬り裂いた。

 武豊は戸惑うように傷口を抑える。


「……馬鹿な」


 武豊は猛攻する。それを受け止め、時に躱し、アラタは武豊の右腕を切断していた。


「馬鹿な! 模倣は完璧だったはずだ! 何故敗れる!」


「借り物の力をひけらかし過ぎなんだよ」


 そう言って、アラタは武豊の喉元に剣を突きつけていた。


「あれだけの攻防で癖を盗んだと言うのか……」


「俺の勝ちだ! ゲートを今すぐ封鎖しろ」


 武豊は、しばし悔しげに落ちた右手を眺めていたが、それを拾うと微笑んで言った。


「ようこそ、私の結界へ」


 その瞬間、赤い半円が原っぱを覆い尽した。




第九話 完



次回『ヒーローは颯爽と戦地に赴く』

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