立ちはだかる結界
時間は少し遡る。
特務隊は雑魚を蹴散らし古城跡地の中心の原っぱまで来ていた。
そこで待っていたのは、巨大な赤い半円だった。
「結界……?」
そう言って、指で結界の端を小さく突く。
「中に入ると傷つく類のものではないみたいね。どうする?」
「行くしかあるまい」
そう、リーダーの五十嵐慎吾は言う。
レーザーの超越者で戦いの熟練者でもある。
四人は、結界の中へと入っていった。
中央に、島津武豊が微笑んでいた。
「悪いが、一気にいかせてもらう」
そう言って、慎吾は手を前に差し出す。
その手からレーザーが発射され、パートナーの配置した鏡に照らされ乱反射する。
そして、腹を貫かれて慎吾は口から血を吐いた。
「なに……?」
傷は焦げている。それはまるで、今自分が放ったレーザーが腹をえぐったかのようではないか。
「一時撤退!」
歴戦の勘からこれは危ないと思った慎吾は、そう叫んで背後へと移動した。
そして、気がつくと武豊に近づいていた。
「な……」
「ようこそ、私の結界へ」
武豊は微笑みを崩さない。
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「なんだ? これは」
古城跡地中心の原っぱに到着した楓と相馬が戸惑うように言う。
目の前にあるのは赤い半円。原っぱを覆う広さだ。
「結界の類です」
先に到着していた青葉が言う。
「指先で触れたのですが、違和感のようなものがあった。しかし、即死系スキルではないようですね」
「アラタの到着を待っているところだ。あいつなら、結界ごと斬り裂けるからな。俺の剣は範囲攻撃スキルないし……」
そう、恭司が言う。
遅れてやってきた翠と大輝にも、同じ説明をする。
「あんま悪いもののような感じはないけどな」
この中で一番勘の鋭い相馬が言う。
最後に、エレンを運びながらアラタとセレナがやってきた。
セレナはエレンを抱き抱え、その手を握っている。
アラタは簡易的な説明を受け、納得したように手に長剣を呼び出した。
「溜めに、少しかかります」
その瞬間、結界が弾け飛んだ。
全員がアラタの顔を見る。
「いや、俺、まだなにもしてないですよ」
アラタが慌てたように言う。
「私が自ら結界を解いたのだよ」
そう、武豊がいる。その横には、光が渦を巻いている。完成しかけているゲートだろう。
「提案がある」
「聞こうじゃないの」
楓が、腕を組んで返事をする。
「アラタくんの武器でゲートが傷ついては困る。しかし、君達は結界がどんなものかわからなくて手をこまねいている。そこでどうだろう結界なしの。一対一で勝負をつけるというのは」
「随分と都合のいい話ね」
「信じられないかい? アラタくんを」
アラタの表情は、ヘルメットに隠されていて見えない。
「アラタくん。才気溢れる人間だ。私の父に肉薄するかもしれないね」
「何故、それがわかる?」
アラタの声に、苛立ちが混じった。
「喰ったのか。自分の親を」
武豊は微笑んで答える。
「さて、どうかな」
「俺、やります」
そう言って、アラタは進んでいく。
楓はしばし迷ったが、そのうち一つ溜息を吐いた。
「任せた」
「ええ」
そして、アラタと武豊は、古城跡地で対峙した。
武豊が日本刀を手に取り、鞘を捨てる。
そして、構えた。
凄まじい圧迫感が周囲を覆う。
しかし、アラタは動じていない。自然体の姿で、相手の動きを待った。
「いくぞ!」
武豊が駆け出す。
アラタは剣を構えた。
そして、武豊の振り下ろしの攻撃を、剣で受ける。
その瞬間にアラタはしゃがみ込み水面蹴りを放った。
それを跳躍して飛び越えて、武豊はアラタのヘルメットへと剣を走らせる。
アラタは即座にそれを防いだ。
そして、両者は距離を取る。
見ていて息が詰まりそうな戦いだ。
そして、剣戟が繰り広げられる。
アラタの体に、傷が増えていく。
しかし、体の動きに影響があるようなダメージは受けていない。
アラタは見の体勢にある。楓はそう感じた。
そのうち、アラタの剣が武豊の横っ腹を斬り裂いた。
武豊は戸惑うように傷口を抑える。
「……馬鹿な」
武豊は猛攻する。それを受け止め、時に躱し、アラタは武豊の右腕を切断していた。
「馬鹿な! 模倣は完璧だったはずだ! 何故敗れる!」
「借り物の力をひけらかし過ぎなんだよ」
そう言って、アラタは武豊の喉元に剣を突きつけていた。
「あれだけの攻防で癖を盗んだと言うのか……」
「俺の勝ちだ! ゲートを今すぐ封鎖しろ」
武豊は、しばし悔しげに落ちた右手を眺めていたが、それを拾うと微笑んで言った。
「ようこそ、私の結界へ」
その瞬間、赤い半円が原っぱを覆い尽した。
第九話 完
次回『ヒーローは颯爽と戦地に赴く』




