風の刃の猛攻
「シンシアちゃん。戦う前に言っておく。あなた達が飲まされている薬は、飲まなければ禁断症状が起こるような危ない代物なの」
私は、できるだけ感情を抑えて、言い聞かせるように言う。
「あなたの組織はあなたを消耗品としか思っていないわ。投降なさい。一般人として過ごせるように尽力するから」
シンシアは、少し面白くなさ気に風の刃を三本放った。
それは、私のバリアにかき消される。
「駄目か」
私は落胆して肩を落とす。
「先に行くぜ」
そう言って、大輝は跳躍した。
そして、放たれる風の刃を爆破して接近する。
「俺の適合率で一番高いのは風だ」
大輝はシンシアに、シンシアは大輝に手を伸ばす。
「どっちが上かな?」
暴風が巻き起こった。
二つの風が激突している。
余裕顔だった大輝の顔が、徐々にしかめられていく。
「ドーピングの分際でぇ……」
シンシアはなにも答えない。
私は光の剣を作り出して援護に向かった。
私と大輝を蹴り飛ばし、シンシアは空から眼下を見る。
「私はあの施設に、五千ドルで売られた」
シンシアは、淡々とした小さな声で言う。
「信じるものを奪われる気持ちがあなた達にわかる?」
シンシアの頬に、涙が一筋流れていく。
シンシアは再び暴風を放った。
それは、風の刃が作り出すミキサーのようなものだ。
私は、その暴風を、自ら作り出した風で受け止めていた。
そして、そのまま直進する。
頬が切れる。腹部に傷が走る。
それでも、前へと進む。
「私達は、あなたを裏切らない!」
シンシアの顔に、動揺が浮かんだ。
その腹部に、火球が当たり、シンシアの風が緩んだ。
大輝が援護してくれたのだ。
そして私は、シンシアを抱きしめていた。
「私達は裏切らない。絶対に、最後まで裏切らない」
「たとえ私が、風使いだとしても……?」
「うちの組織は能力者だらけだ。普通に暮らしている人も珍しくもないさ」
「それは、魅力的な提案ね」
そう言って、シンシアは私の体を押し、そして腹部に風の刃を叩き込んだ。
私は血を吐き、大地に落ちていく。
「二度、裏切られた。もう、私はなにも信じられない」
私は大地に落ちる寸前で飛行スキルを発動させる。
そして、傷の治癒に集中し始めた。
「自分だけが不幸ってツラしてんじゃねーよ!」
大輝がシンシアに飛びかかる。
二人は炎と風をぶつけ合って激しい戦闘を繰り広げている。
「シンシア!」
私は、叫んだ。
シンシアの表情に戸惑いが生まれる。
「何度でも言う。私は裏切らない。命を賭けたっていい」
シンシアの動きが、鈍った。
そこに、炎を纏った大輝の拳が叩き込まれた。
シンシアは落下していく。
それを、私は受け止めていた。
シンシアが、もどかしげな表情になる。まるで、喉元から出かかっているものを吐き出せずにいるような。
「どうして助けるの? 私が頭を打ってたら、そのまま進めたのに」
「あなた達を助けたいからよ。私のその言葉に、嘘はない」
「……本当に、裏切らない?」
シンシアの目に、涙が一筋溢れる。
「ええ、本当よ。世界中が敵になっても、私達はあなたを守り続ける」
シンシアの瞳から涙が溢れた。
そのまま、泣き続けるシンシアを、私は抱きしめてあやすことしかできなかった。
第六話 完
次回『純粋なる暴力』




