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ソウルキャッチャーズ~私は一般人でいたいのだ~  作者: 熊出
第十四章 離れれば寂しくて、近づけば痛くて(第二部最終章)
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風の刃の猛攻

「シンシアちゃん。戦う前に言っておく。あなた達が飲まされている薬は、飲まなければ禁断症状が起こるような危ない代物なの」


 私は、できるだけ感情を抑えて、言い聞かせるように言う。


「あなたの組織はあなたを消耗品としか思っていないわ。投降なさい。一般人として過ごせるように尽力するから」


 シンシアは、少し面白くなさ気に風の刃を三本放った。

 それは、私のバリアにかき消される。


「駄目か」


 私は落胆して肩を落とす。


「先に行くぜ」


 そう言って、大輝は跳躍した。

 そして、放たれる風の刃を爆破して接近する。


「俺の適合率で一番高いのは風だ」


 大輝はシンシアに、シンシアは大輝に手を伸ばす。


「どっちが上かな?」


 暴風が巻き起こった。

 二つの風が激突している。


 余裕顔だった大輝の顔が、徐々にしかめられていく。


「ドーピングの分際でぇ……」


 シンシアはなにも答えない。

 私は光の剣を作り出して援護に向かった。


 私と大輝を蹴り飛ばし、シンシアは空から眼下を見る。


「私はあの施設に、五千ドルで売られた」


 シンシアは、淡々とした小さな声で言う。


「信じるものを奪われる気持ちがあなた達にわかる?」


 シンシアの頬に、涙が一筋流れていく。


 シンシアは再び暴風を放った。

 それは、風の刃が作り出すミキサーのようなものだ。

 私は、その暴風を、自ら作り出した風で受け止めていた。

 そして、そのまま直進する。


 頬が切れる。腹部に傷が走る。

 それでも、前へと進む。


「私達は、あなたを裏切らない!」


 シンシアの顔に、動揺が浮かんだ。

 その腹部に、火球が当たり、シンシアの風が緩んだ。


 大輝が援護してくれたのだ。

 そして私は、シンシアを抱きしめていた。


「私達は裏切らない。絶対に、最後まで裏切らない」


「たとえ私が、風使いだとしても……?」


「うちの組織は能力者だらけだ。普通に暮らしている人も珍しくもないさ」


「それは、魅力的な提案ね」


 そう言って、シンシアは私の体を押し、そして腹部に風の刃を叩き込んだ。

 私は血を吐き、大地に落ちていく。


「二度、裏切られた。もう、私はなにも信じられない」


 私は大地に落ちる寸前で飛行スキルを発動させる。

 そして、傷の治癒に集中し始めた。


「自分だけが不幸ってツラしてんじゃねーよ!」


 大輝がシンシアに飛びかかる。

 二人は炎と風をぶつけ合って激しい戦闘を繰り広げている。


「シンシア!」


 私は、叫んだ。

 シンシアの表情に戸惑いが生まれる。


「何度でも言う。私は裏切らない。命を賭けたっていい」


 シンシアの動きが、鈍った。

 そこに、炎を纏った大輝の拳が叩き込まれた。


 シンシアは落下していく。

 それを、私は受け止めていた。

 シンシアが、もどかしげな表情になる。まるで、喉元から出かかっているものを吐き出せずにいるような。


「どうして助けるの? 私が頭を打ってたら、そのまま進めたのに」


「あなた達を助けたいからよ。私のその言葉に、嘘はない」


「……本当に、裏切らない?」


 シンシアの目に、涙が一筋溢れる。


「ええ、本当よ。世界中が敵になっても、私達はあなたを守り続ける」


 シンシアの瞳から涙が溢れた。

 そのまま、泣き続けるシンシアを、私は抱きしめてあやすことしかできなかった。



第六話 完

次回『純粋なる暴力』

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