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ソウルキャッチャーズ~私は一般人でいたいのだ~  作者: 熊出
第一章 私は一般人でいたいのだ
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同胞

「間違いは、ないか?」


 夜の道で、スーツの男は隣に立つ少女に訊ねる。


「間違いはないようよ。悲鳴が幾重にも聞こえてきてこっちが気が狂いそう」


 少女は投げやりに言う。

 二人は、パーカーを着てフードを目深にかぶった男と対峙していた。

 フードを目深にかぶった男の目には、赤い光が輝いている。


「多分最初で最後だな。本気をだすのは。この出会いは、予知できていた」


 そう言って、フードを目深にかぶった男は構えを取った。


 夜の闇を光の線が斬り裂いた。

 それは、スーツの男の掌から放たれた光線と、突如現れて周囲に浮遊する鏡が生み出した破壊の印だった。


 それを、フードを目深にかぶった男は、避ける、避ける、避ける。

 電信柱を蹴り、家の壁を走り、屋根に移動し、避ける続ける。

 そして、反転しつつ飛ぶ刹那、掌から気の塊を四度放った。

 二人は回避するために一旦攻撃の手を止める。


 そして、フードを目深にかぶった男は向かいの屋根に着地する。

 半分とはいえ鬼を吸収したせいだろう。尋常な運動神経、スタミナではない。


「あんたらのコンビは確かに県下最強と言えるだろう。けど、詰めが甘かったな」


 フードを目深にかぶった男は、そう言って手を掲げた。

 周囲の気温が上がる。太陽のように眩しい炎の球体がその場に現れていた。


「あんたらのコンビは、範囲攻撃に弱い」


 そう言って、フードを目深にかぶった男は微笑むと、手を下ろした。

 炎が落下していく。

 しかし、スーツの男も、少女も、無表情だ。


「出番だ」


 スーツの男が呟くと、物陰から一人、青年が現れた。

 青年が構えると、三人を広く包み込むバリアが現れた。


「ほう」


 フードを目深にかぶった男は感心したように言う。


「だが、熱気に勝てるかな。最後は木乃伊というのは興ざめだからやめてくれよ」


 ついに、炎がバリア全体を包んだ。バリアの中の温度は、どんどん高くなっていく。

 その時、一発の銃声が鳴り響いた。


 炎が消える。

 フードを目深にかぶった男は、赤い目で周囲を見回す。

 暗闇で見えない。

 その腹部からは、とめどなく血が溢れ続けている。


「一枚上手、か」


 そう呟くと、フードを目深にかぶった男は夜の屋根を駆け始めた。

 逃走のために。



+++



「ということがあったわけよ」


 夜の居酒屋で、フード付きパーカーを着た男が溜息混じりに言う。パーカーの腹の部分には穴があり、相当量の出血の痕跡がある。


「なるほど。警戒されて辛くなってきた、と」


 向かいに座る女性が、言って焼き鳥のももを頬張る。


「そんなとこかね。相手は俺に対策を練ったメンバーを組んでいる。だからそのセオリーを崩してやろうと思ってさ」


「それで私に協力を依頼すると」


「安いもんだろ。お前のは範囲殲滅型だ。ばーっとやってばーっと帰れば終わりだ」


「しかし、あなたは自分が上だと思っているでしょう」


 女は意地悪く笑って言う。

 二人のハートは、様々な飾りで装飾されておりどれが本体かわからぬほどだ。

 ただ、その一番前にある掌のマークが、二人がソウルキャッチャーだということを示している。


「タイマンで戦ったら負けねえ」


「そのタイマンで戦うという手はありますか?」


 男は不機嫌な表情で押し黙る。


「地道に超越者を探すより、あなたの集めた分を奪ったほうが早そうだ」


「冗談はよせ」


「……本気ですよ」


 耳に痛いような沈黙が漂う。周囲の賑やかな声が遠くに聞こえる。

 男と女は、黙って向かい合った。


「なんて、ね」


 そう言って、女は視線を逸らす。


「真のモンスターはあなただ。私だってわかっているつもりです」


「……まあ、面倒を押し付けて悪いと思っている」


「いいですよ。ここ、おごりですよね?」


「あー、いいよいいよ、おごりだ」


 男は苦笑顔になっている。

 交渉は成立した。

 ソウルキャッチャー達は暗躍する。



+++



 楓は、三枝家と書かれた墓の前で、両手を合わせていた。

 その背後に、私は立っていた。

 線香の匂いが、周囲には漂っていた。


「英治……あんたのスキル、取り戻せたと思ってたよ。けど、どうしてかな。違うようだ」


 そう言って、楓は私を見る。


「ここに眠る魂の断片と、シスターが使っていた炎には、繋がりが感じられません。別人物のスキルだと思ったほうが良いでしょう」


 楓は髪の毛をかきあげて、苦笑して墓に視線を戻す。


「だってさ、英治」


 返事は、もちろんない。沈黙が、しばしの間周囲に漂った。


「また来るよ、英治。今度はスキルを取り返してから来るよ」


 そう言って、楓は歩き始めた。


「その、仲良かったんですか?」


「幼馴染だよ」


 淡々と楓が放った言葉が重く胃に伸し掛かる。

 楓も、失ったのだ。大事な人間を。


「趣味も似てて気性も似てて、炎と氷の対。双子みたいだっていつも言われてた。だからこそ、許せないんだ」


 楓は、珍しく険しい表情で前を向く。


「あいつのスキルが、悪用されていることが」


「協力しますよ」


 私は、優しい声で言っていた。


「当然でしょ。あんたが要よ。ソウルキャッチャー」


 そう言って、楓は私の胸の中央を軽く叩いた。



第十八話 完

次回『撫壁は立ち続ける』本日投稿予定。

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