その日、町が震えた
その日、町が震えた。
空は曇天になり、薄暗い大地を人々は進む。
そして、人々を守る五芒星は巨大な逆五芒星、悪魔の象徴となっていた。
楓のチームはすぐに招集を受けた。
翠、大輝、青葉、アラタ、恭司、相馬、そしてセレナ。
この場にいるセレナに、翠は怒っているようだった。
「薬、飲んだのね」
「……エレンは私が救う。これは、翠にもできないことだ!」
翠は深々と溜め息を吐くと、セレナを抱きしめた。
「約束して。死なないって」
「うん。私毎日、翠と過ごしたら楽しいだろうなって、色々想像しながら暮らしてるんだ」
セレナは翠を抱きしめ返す。
「絶対に、生きて帰る」
「じゃあ、チーム割りをするわよ」
楓が言う。
「正面からは青葉、恭司、サポートに相馬と私。主戦力をここに集めるわ。西からは翠、大輝。東からはセレナ、アラタ」
「裏面からは?」
翠が問う。
「特務隊が動いているわ。それに、警備隊も銃を持って内部に突入している」
「早く到着して援護に入らなければいけませんね」
「ええ、そうね。本人達が聞けば怒りそうだけど」
楓の言葉に、翠は苦笑する。
「敵の戦力は未知数だわ。けど、未来によればここのゲートが開いたことによって各地のゲートが開く。正念場よ。全員、生きて帰るように」
「はい!」
「うい」
相馬を除く六人は声を合わせて返事をした。
そして、各々の突入経路に向かって移動していった。
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正面を走る青葉、恭司、相馬、楓は、銃声を聞いて足を止めた。
青葉と恭司が撫壁を展開する。
「このおもちゃじゃ足りないかぁ」
そう言って、糸目の温和そうな男が銃を放り捨てた。
その下には、五人ほどの警官の遺体がある。
尋常な殺され方ではない。
体を折られ、割かれ、血みどろになって倒れている。
青葉は風の刃を生んで、飛ばした。
それは、相手の服は斬ったが、肌に傷をつけることなく消えた。
「恭司、青葉、先に行って」
そう言って、楓が先頭に立った。
「一刻を争う事態よ。主力が主戦場に辿り着けなかったら意味がない。こいつは、私と相馬が引き受ける」
「わかりました」
「死ぬなよ」
そう言って青葉と恭司は駆けて行く。
太い木の幹をへし折って、糸目の男は二人に殴りかかった。
しかし、次の瞬間には男は氷漬けにされ、振ろうとした木は動きを止めていた。
「中央で待ってます!」
「ボスを倒してな!」
二人は駆けて行った。
糸目の男の力によって氷が割れる。
やはり、身体強化系能力者のようだ。
「エレンと同じ氷の使い手か……面白くない」
そう言って、糸目の男は、木を振り上げた。
「未来を少年に託して大人が道を開く。いい判断じゃないか」
相馬がからかように言う。
「合理的に判断しただけよ」
少し照れくさげに楓は返す。
戦いが始まろうとしていた。
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私は大輝と駆けていた。尋常な速さではない。鬼の力とドラゴンの力を吸収し、二人の身体能力は人知を超えたものへと強化されていた。
相手は、空に浮いていた。
そして、手を大きく振った。
風の刃が放たれる。
二人でバリアを展開して、しのぐ。
「シンシアちゃんね」
翠は淡々とした口調で言う。
「エレーヌもセレナもあなたがそんな組織と手を切ることを祈っている。私達に、投降しなさい」
シンシアは返事をしない。指揮者のように手を振り、風の刃を産み続ける。
「バリアがもたねえぞ」
大輝が言う。
「……戦うしかなさそうね」
私は溜め息を吐いて、そう言った。
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セレナは、アラタと駆けていた。
そして、外灯の下で、彼女の姿を見つけた。
近づきたかった者。けど、近づき難い者。
エレンが、氷の剣を持って、二人を待ち受けていた。
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武豊は上空から全てを見ていた。
足元のゲートは開き始めている。
警察の第一波さえ凌げば、開ききるだろう。
鼻歌を歌って、武豊はその時を待つ。
第五話 完
次回『風の刃の猛攻』




