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ソウルキャッチャーズ~私は一般人でいたいのだ~  作者: 熊出
第十四章 離れれば寂しくて、近づけば痛くて(第二部最終章)
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離れれば寂しくて、近づけば痛くて

 水月は青葉にもたれかかってうとうととしていた。

 子供の夜泣き続きでよく眠れていないのだ。


「今回は君は教会でじっとしていてくれ」


「私じゃ……役に立てないと?」


 水月は、とぎれとぎれに言う。


「いや。子供のためだ。俺の知っている歴史と今の歴史にはかなりの齟齬が生じている。はっきりと言って、別物と言っていい。この先、どう転ぶかわからない」


「安全地帯にいろってこと?」


「有り体に言えばそうだな」


 水月は黙り込む。できるならば、愛しいこの人を守って戦場を駆けたかった。

 けど、今は子供がいる。

 帰ってこれるかわからない場所には行けない。


「あなたは……行くのね?」


「未来を変えるためだ。その最後のパーツが、俺かもしれない」


「あなたは……私を縛る布だわ」


「どういう意味だ?」


「離れれば心細くて、縛り過ぎたら痛くて」


 水月は、鼻をすする。


「時々、泣きたくなる」


「……寂しい思いをさせてすまないと思っている」


「いいの。いいのよ。仕方がないことだから」


 そう言って、水月は体を起こす。

 そして、気丈にも微笑んでみせた。


「私は一人で、あの子を育てきってみせる。あなたは、世界を救ってみせて」


「ああ、約束しよう」


 そう言って、青葉は水月を抱き寄せた。

 そう、青葉は世界を救おうとするだろう。

 たとえその代償にこの世界から消えることになったとしても。

 水月も、それをわかっているのだ。

 だから、自分達の関係は、離れれば寂しくて、近づけば痛い。

 最後の別れを享受した閉じた関係。

 なんとかしないとな、と思うのだけれど、妙案も出てこない。

 キーは、葵が握っている気がした。




+++



 深夜、対策室でカップラーメンを食べていた楓に、電話があった。


「こんばんは、日本の超越者対策室ですか?」


「エミリー。久しぶりね」


 エミリー。弟のために暗殺者となったが、その能力をかわれてアメリカで捜査員をしている少女だ。


「ああ、楓さん。ちょうどよかった」


「耳よりな情報があるのね?」


 楓は思わず微笑んでいた。


「はい。セレナって子が車で見た看板の地名で大体の土地は絞れました。そして、航空写真を見ていたところ、条件に近い建物を特定できました」


「ありがとう。これ以上ない朗報だわ」


「上からも通達がいくでしょうけど、直接伝えとこうと思って……巴は元気ですか?」


「わかんない。ほとんどやってることが別の職だからね。けど不調って話も聞かないから元気でやってると思うわ」


「なら良かった。そのうちまた日本へ行くので、巴の休日聞いといてくれませんか」


「あいあい、お安い御用だ」


 一歩前進。そんな満足感が、楓を包んだ。

 それにしても、と思う。


「日本語上達したわねー」


「一日三時間勉強しているので。巴の母国語で喋ってみたいんです。では」


 そして、電話は切れた。



第四話、完



戦闘へと歯車は動き始めます。

次回『その日、町が震えた』


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