アラタと大輝が考える敵の戦力
「なんかお前の不眠症がうつった気がするよ」
バーガーショップで、アラタは大輝にそう愚痴った。
「そりゃいいことだ」
「なんでだよ」
「同病類憐れむといこうや」
「お前と一緒になるのは御免こうむる」
「おや。俺は君のなんだっけ?」
アラタは苛立ちつつ答える。
「恋人のお兄さんです」
「よろしい」
「戸籍上は赤の他人だけどな」
アラタはそう言って、ハンバーガーを一口食べた。
「で、だ。あらためてなんの話だ?」
大輝が面倒臭げに言う。
「選ばれし子供達の施設には二百人はいたという」
アラタは自分の死刑宣告を読み上げているような気分になる。
「今回の敵の戦力、いかほどだろうな」
「ふむ。それが不眠症の種か」
「まあ、有り体に言えばそうだな」
「俺はそう多くないと見る」
大輝の言葉に、アラタは戸惑う。
「なんでだ?」
「今回のバックにいるのは相手側の国の中でも権力を持つ者だ」
「うん、だろうな」
「それが研究対象を最後の一兵まで送るか? まずその時点でありえない」
「あ、そうだな。研究が進まなくなる」
「第二に、だ。二百人も一気に来日して、事件を起こしましたとなったら、それは偶然じゃない。必然だ。国同士の問題に発展する。相手もそれは望んでないはずだ」
「なるほどなあ……」
アラタはどんどん気が楽になってきた。
「多分、武豊が一生懸命上に嘆願して出せた戦力が今の戦力じゃないかと俺は見るね。上も、成功したらおいしい、失敗したら切り捨てる、その程度のつもりだろう」
「しかも、そのうち二人は既に捕縛されている」
「どうだ? ちょっとは安堵したか?」
「……結局目の前の敵を倒していくしかないんだなって」
「そりゃそうだ。人生はハードルの連続だ。こけた奴は遅れるがまた走り出す」
「今回はこけたら死ぬけどな」
「スーツがあるだけマシだと思っとけよ。俺なんて生身だから何回危ない目にあったか」
「そうだな。やっぱすげー奴だよお前は」
人間として尊敬できるかどうかは別だけど。そんな言葉を、アラタは飲み込んだ。
「褒めてもおごらんぞ」
「俺がおごるよ。気が楽になった」
「ああ、なら俺がおごる。石神から貰った金があるからな」
「おごるっつってんだろ」
「俺はお前のなんだ?」
「……恋人のお兄さんです」
「わかってるなら、いい」
結局、この人には勝てないのかもしれない。
アラタは、そんなことを思った。
第三話 完
次回『離れれば寂しくて、近づけば痛くて』




