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ソウルキャッチャーズ~私は一般人でいたいのだ~  作者: 熊出
第十四章 離れれば寂しくて、近づけば痛くて(第二部最終章)
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決戦へのカウントダウン

この作品を投稿し始めて半年。早いものです。

今日は第二部最終章をすべて上げようと思います。

「これなに? 乗ってるのはアイスってわかるけど」


 セレナが器に盛られたかき氷を見て好奇心に目を輝かせる。

 ある喫茶店だ。

 私、斎藤翠はセレナを気分転換に外に連れ出したのだ。


「かき氷って言うんだよ。白いのは甘い練乳ってもので、まあデザートだね」


 私は穏やかに微笑んで答える。


「へー」


 そう言って、セレナはかき氷を一口食べた。


「あまーい」


 上機嫌にそう言う。


「あんまりがっついて食べないようにね。頭にキーンとくるから」


「キーンとくる?」


「そう。キーンときて痛くなるの」


「わかった」


 セレナは神妙な面持ちでスプーンを運んでいく。

 その表情が、かき氷を口にするたびに緩んだ。

 まったく、見ていて飽きない子だ。子犬みたいだと思う。


「それでね、セレナ。独房を出た後の話なんだけど……」


 私は、あらためて話を切り出し、書類をテーブルの上に置く。


「あなた達は各地の超越者の家庭に引き受けられて、学校に通うことになる。部活なんかも楽しいかもしれないわね」


「うん」


 セレナの食べる手が止まった。


「私の養子にならない?」


 セレナの表情が、唖然としたものになる。


「私は狙われる身だけど、あなたは自分で自分を守れる。一人でいるよりも、二人でいるほうが安心だ。悪い話じゃないと思うんだけど……」


 セレナは口を閉じ、しばし考え込んだ。

 彼女のスプーンに乗った氷が、溶けたのか器に落ちた。


「その話。すっごく嬉しい」


 セレナは、神妙な表情でそう言う。


「うん。じゃあ、その方向で話を進めていい?」


「待ってほしい」


 セレナは、申し訳無さげにそういう。


「やっぱり、私の家じゃ不安?」


「そういうんじゃないんだ。降りかかる火の粉は自分ではらえるよ」


「それじゃあ、なんで?」


 セレナは、真っ直ぐに私を見て口を開いた。


「エレンとシンシアが自由になっていない」


 私が黙り込む番だった。


「彼女達を救わない限り、私は自由になれない」


「そっか。けど、それさえなければうちの子になってくれるってことね」


 セレナは一生懸命何回も頷く。


「楽しみにしてるわ。お母さんって呼ばれる日のこと」


「なんか、照れ臭いな」


「ね」


 二人して、照れ笑いを顔に浮かべた。



+++



「警備に立った人員からは不審な人物は目撃されていないようです」


 超越者対策室の自分の席で報告を受けた楓は、小さく頷いた。


「そう……」


「諦めた、ということはないですかね」


「逆五芒星が出現した途端にすっ飛んでくるわよ。文字通りね」


「そうですね」


 沈黙が漂う。


「早く、こんな事件も終わってほしいものです」


「思うんだけどね」


 楓は、思いついたままに言葉を紡ぐ。


「なんであの古城跡地なんだろうって」


「五芒星の中心になったからでしょう?」


「なら、なんで五芒星の中心にたまたま城が建つなんて偶然が起きたんだろう」


「……言われてみれば、妙ですね」


「でしょ」


 楓はそう言って、手を逆に組んで伸ばす。


「昔の文献とか調べれば面白い逸話とか出てきそうだと思わない?」


「ちょっと人員を割いてみますか」


「話の早い人って好きよ。頼んだ」


「はい」


 そう言って、報告に来た警官は去っていく。


「もっとも、そんな逸話があればこの地で育った私が聞いてないわけないんだけどね」


 そう、楓は呟く。けど、念のため調べ直すのが得策だろう。


「……対策室長は私なんだけどね」


 そう、大きなデスクを使っている室長が言う。


「私が直接話したほうが早いでしょう? 大丈夫。私は室長の座なんて狙ってませんよ」


「……まあ、君は面倒な雑務なんて嫌いそうだものな」


「そうです。自信持ってくださいよ」


「奪っている人間がよく言うものだ」


 そう言って、室長は苦笑した。

 こうしている間にも、決戦へのカウントダウンは進んでいるのだった。




第一話 完


次回『私、養子とるわ』

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