災いの地
「これは、日本そのものがそういう傾向がある国なんだがね」
壮年の男が、椅子にもたれかかって言った。
女性が、眼鏡の位置を整えながら言う。
「はい」
「あの土地は、昔から霊的なトラブルが何度も起こった地なんだよ」
「なぜ改善しようとしないので?」
「五芒星は引かせただろう?」
「まあ、そうですけどね」
「だから、半分霊的な存在である超越者はあの地に集まるのさ。運命か偶然か必然かはわからないところだけどね」
「今回もその一環だと」
「ああ、そういうことだ」
「他の土地から援軍を送ることはしないので?」
「あの地の戦力で勝てない敵なら、そもそもこちらの負けさ。それ以降……魔物の徘徊する世界を見据えて、戦力は温存しなければならない。中途半端な実力者を送れば敵に取り込まれる恐れもある」
「信頼してらっしゃるんですね」
「正直、特務隊だけで武豊は処理できると思うよ。正面衝突してないだろ、彼ら」
「特務隊に出動の知らせが遅れたのと、最近勢力を伸ばしている楓派の活躍のせいですね」
「自分の下に人が集まる。それも宿星というものさ。彼女は、世が世なら傑物になっていたかもしれない」
「平和な世界でなによりです」
「最悪のケースになれば僕が直接出る。まあ……そうなった時は」
壮年の男は、立ち上がって窓際に立った。
「血の雨だろうがね」
そう言って、煙草の箱を取り出す。
「ここ禁煙ですって何度言えばわかるんですかね」
女性が呆れたように言う。
「煙草そのものをやめません? 高いでしょ、今」
「昔の倍近い額だねえ。けど知ってるかい? 煙草を吸わなくても吸ってても癌になる時はなるんだ。善人でも悪人でも罪を起こす時は起こしてしまうように」
「武豊は善人だと……?」
「純粋すぎるのさ」
そう言って、壮年の男は部屋を出ていった。
その背中には、見るだけで相手を畏怖させるような迫力があった。
第十話 完
短いエピローグとともに第十三部は完結となります。
次回第十三章完結『任せろ。私は正義のヒーローだからね』




