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ソウルキャッチャーズ~私は一般人でいたいのだ~  作者: 熊出
第十三章 悪魔との契約
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悪魔との契約

 彼が到着したのは、先生が電話をして数日後のことだった。

 先生、エレン、シンシアの三人で出迎える。


「人を殺せるんだって?」


 第一声がそれだった。

 糸目で温和そうな外見に似合わぬ凶暴性。

 それが、ドイルという男。


「ああ。思う存分、殺してくれていい。だが、まだだ。逆五芒星の陣が発動してからだ」


「そうかい。ああ、楽しみだな。よだれが出そうだぜ」


 下品さに、エレンは思わず眉間に皺を寄せた。


「相変わらず堅物だな、エレン」


 ドイルはそう話しかけてくる。


「私が堅いんじゃなくて、あなたがちゃらんぽらんなだけよ」


「まあ、働きは戦場で見せる。それまでは黙して語らずだ」


 そう言って、思いのほか大人しくドイルは先生に従った。


「なんか、大人しくないですか?」


 先生に小声で訊く。


「そういう薬を依頼している」


 先生は、淡々と言った。

 そういうことか、とエレンは納得する。


 友人の、いや、友人だった少女の台詞を思い出す。

 先生は自分達を騙している。道具として使っている、と。

 それは白紙に垂らした墨汁のようにエレンの心を染めていく。


「エレン」


 先生が言って、エレンは我に返った。

 後部座席のドアが半開きだった。

 慌てて、締め直す。


「アジトに戻ったら、私の部屋に来なさい」


 先生はそう言うと、車を発進させた。

 なんの話だろう?

 エレンは戸惑い、移動の時間をやけに長く感じた。




+++




「ふう、疲れるね。何かを達成するには対価が必要だ。賃金だったり、労働力だったりね」


 そう言って、先生は椅子に腰掛ける。


「なんの御用でしょうか、先生」


「セレナと出会ったね?」


 エレンは、小さく震えた。


「奪還のチャンスはなかったか?」


「彼女が相手側につくことを望みました。しかし、何故それを?」


「千里眼のスキル。これがあるから、僕は君達を施設から出すことを上に納得させることができた」


「彼女は、言いました」


 エレンは、胸が一杯になった。

 その一言を吐き出すだけで、その場に崩れ落ちるのではないかと思った。

 けれども、放った。その一言を。


「先生は私達を裏切っている、と」


 先生は手を組んで、しばし考え込んだ。


「考えてみてくれ、エレン。どうして私は君にだけ薬のことを打ち明けたか。なぜ君達をショッピングモールなんていう誘惑の多い地に行かせたのか」


「わかりません」


「君達を、大事に思っているからだよ」


「投薬してでも、ですか」


「……それは、申し訳ないと思っている」


 先生は、そう言って頭を下げた。


「やめてください、先生。私はそんなことをしてほしいわけじゃない」


 先生はゆっくりと頭を上げる。


「君には、傍にいてほしいんだ」


 その一言に、エレンは胸が高鳴るのを感じた。


「魔物との戦い。その戦闘で、君には僕の隣を守ってほしい。僕らは、新たな神話の象徴となるんだ」


 とんでもない自作自演だ。

 けど、否定の言葉が出てこない。

 先生の望む未来に自分がいる。それを思うだけで、胸が一杯になる。


「わかりました」


 エレンは、背筋を伸ばす。


「私は先生を裏切りません」


「ああ。片方が死のうとも、この絆は消えない」


 そう言って、先生は手を差し出した。

 エレンは、その手を掴むことを一瞬躊躇した。しかし、勢いに任せて握ってしまった。

 退路はないのだと、思い知った。

 それは、悪魔との契約だった。



第八話 完

次回『決意』

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