武豊の戦力増強策
アジトに戻った先生は焦燥していた。
腹部に怪我を負ったシンシアを抱えつつ飛んで、逃げてきたところだ。
敵は五芒星の調査に必死だろう。
残された時間は、限られている。
先生はシンシアの腹部に手を置いている。
手からは暖かな光が放たれ、傷の治癒が進んでいる。
「任務に失敗しました」
エレンは神妙な表情で階段を降りていった。
「いいや、君達は囮という役割を立派にこなした。目標の完遂はすぐそこだ。セレナは?」
「私の逃走を手伝って、敵に捕まりました……」
「そうか。惜しい子をなくした」
エレンは、心中がざわめくのを感じた。
警察に薬を提供すればセレナは生きられるのだ。
しかし、先生はそれをしない。
まるで、自分達を道具として扱っているかのように。
「本国から、彼を呼ぼうと思う」
「彼、ですか」
思い当たる節があり、エレンは眉根をよせる。
「そう嫌な顔をするな。彼も君達の仲間だ」
「その仲間を、彼は癇癪で五人も殺しています」
「しかし、腕は立つ。精神安定剤も飲ませた上で、本国から出てきてもらおうと思う。さて」
そう言って、先生は手を組む。
「警察の五芒星の調査までに一週間。援軍が来るまで数日。術式の完成に一ヶ月。ゲートを開くのに半日」
先生の目に、鋭い光が走った。
「決戦まで時間は着実に動いている」
エレンは、息を呑んだ。
そして同時に、自分達はただの道具ではないかという疑念を深めたのだった。
第六話 完
次回『呑気な術師、不安な周囲』




