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ソウルキャッチャーズ~私は一般人でいたいのだ~  作者: 熊出
第十三章 悪魔との契約
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果たし状

 家に戻って玄関の郵便受けを調べる。

 想定外の品が入っていて、アラタはしばらくそれをじっと眺めた。


「果たし状……」


 古風なことをする人間もいたことである。

 中を開くと、今夜一時近所の公園で、とある。


 差出人には、氷の剣士、とあった。


(あいつか……)


 どうしたものだろう。

 果たし状そのものには文句はない。

 ただ、相手が一人で来るかわからないという弊害も伴う。


 もしも一人で行って複数人に囲まれたら。

 それは、想像したくもない未来だった。


(本当、どうしたもんだ)


 手紙が来たということは家は割れているということだろう。

 なら、迂闊に逆らうことはできない。

 とりあえず、楓に相談してみることにした。




+++



「なんでこうなるんですかね」


 アラタはぼやいていた。

 アラタの周囲にはブレイン役の楓と戦闘員が勢揃いしていた。


「私達は少し離れた距離で時間を潰しているわ。できるなら勝って。応援してるわ」


 応援している、というには楓の台詞は淡々としている。


「私は、公園まで行くわよ」


 と、さつき。


「私も行きます!」


 勇気が対抗するように言う。


「……まあ、観客二人ぐらいなら問題ないか」


 そうぼやくように呟いて、アラタは足を進めた。

 戦闘員達は途中の道で離れていく。各々、公園の茂みに隠れる算段のようだ。


 そして、午前一時。

 氷の剣士は、公園で待っていた。

 氷が彼女を覆い、それは一本の剣となる。


「一対一を所望したつもりでしたが」


 氷の剣士は、淡々と言う。


「二人は弟子で見物人だ。たまには格好いいとこ見せないとな」


「勝てる気ですか」


「勝てる気じゃなくて、勝つ気なんだよ」


 淡々とアラタは言う。

 氷の剣士は、歳相応の笑みを顔に浮かべた。


「あなたのこと、少し好きになりました」


「負けた時の言い訳にすんなよな」


「ミジンコから蟻にランクアップした程度ですのでご心配なく」


「俺を踏むな。フォルムチェンジ」


 そして、アラタの体は白いフルフェイスヘルメットとスーツに包まれる。

 右手には長刀。月の光を受けて鈍く輝いている。

 命の危機は、感じていない。

 だから、火事場の馬鹿力は出せないか、と少々落胆する。


「なあなあ、エレン。俺暇なんだよ」


 そう言って、エレンの背後から赤い目を輝かせ、それに揃えたように赤い髪をした少女が現れた。


「ちょっとそこの見物人で遊んでていいか?」


 エレンはアラタを見て、赤髪の少女を見て、しばらく考えて溜息を吐いた。


「殺さないようにね」


「そうこなくっちゃ!」


「舐められてますね、私達」


「そうだな。こういう手合は出鼻をくじくのが肝要だ」


 そう言って、さつきと勇気は鞘を捨てて日本刀を両手で構える。


「話が違うな」


 アラタは、冷や汗を流しつつ言っていた。


「互いにね」


 氷の剣士は、淡々とした口調で言う。


「決着は早めにつけるとしましょう」


 そう言って、氷の剣士は剣を前に差し出すようにして構えた。


「おうよ!」


 そう叫んで、アラタは駆け出していた。




+++




「相手が約束を破った」


 楓が呟くように言った言葉が、多人数のスマートフォンに送られる。


「全員で出るか?」


 恭司が言う。


「しばし、様子を見る。戦闘訓練にもなるしね」


「戦闘訓練で灰にならなきゃいいがね」


 嫌味を挟むのは相変わらずの相馬だ。

 親しくなったと思ったが、やはりこの男は変わらない。


「凄い戦いですね……」


 そう呟いたのは翠だ。

 確かに、激戦だった。

 アラタとエレンの剣は互いにぶつかり続け、体へのダメージを許さない。

 さつきと勇気はセレナの炎をかいくぐり、勇気のレーザーを軸に徐々に接近している。

 レーザーの存在によって、敵は溜めのいる範囲攻撃を封じられた形だ。


 新人が一人前の仕事をしている。


「お姉ちゃん嬉しいよ。皆が立派に戦って」


「戦いを傍観してる司令官の台詞としてどうよ」


「そんなに戦いたいの? 相馬」


「いや、暇だからつい」


「ついで嫌味を言うな嫌味を」



+++



 赤髪の少女がレーザーを跳躍して避ける。

 しかし、無情にもレーザーはその後を追いかけてくる。

 追いつめられたか、とおも思ったその時、少女は背後の公民館の壁を蹴って逃れた。

 空中で赤い玉が十個出来上がる。

 それを同時に違う機動で放った。


 さつきが勇気の前に立ち、真っ直ぐ前の空間を突いた。

 次元突。異世界への扉を開く技。

 炎は次元突が作った空間に吸い込まれて消えた。


 そして、勇気は前に出て指からレーザーを放つ。


「鬱陶しいんだよ!」


 赤髪の少女は叫び、前進を試みた。

 ジグザグに走り、レーザーの射線を上手く躱す。

 そして、炎に燃える拳が振るわれ、さつきはそれを躱した。


「次元と……」


「遅い!」


 さつきが蹴り飛ばされ、血を吐きながら後方へ倒れた。


「さつき!」


 勇気がさつきを見て叫ぶ。

 それは、決定的な隙だった。


「甘い!」


 炎を帯びた赤髪の少女の拳が、勇気の日本刀を握って溶かす。


「弱い!」


 そして、赤髪の少女は勇気も蹴り飛ばした。

 身体能力強化の力も保つ赤髪の少女の蹴り。

 内臓は大丈夫だろうか。起き上がらなければ殺される。そう思うのだが、体が痙攣して動かない。


 さつきの落とした日本刀を拾って、赤髪の少女は手を振り上げた。

 その腕が、瞬時に凍った。


 赤髪の少女は狼狽しつつも、後方へ跳躍して距離を取る。

 腕の氷は熱で蒸発したようだ。


「メンバーチェンジよ、いつぞやのお嬢さん。私が相手するわ」


 そう言って、楓がその場に乱入した。

 赤髪の少女の形相が変わった。




+++




「次元と」


「させるか!」


 アラタと氷の剣士の距離は近い。

 それでも、氷の剣士はアラタに一撃も与えることはできない。


 氷の剣士の癖は、もうアラタにはよめていた。

 よめないのは一つ。

 前回、距離を詰めた時に感じた悪寒。

 あれは一体何だったのだろう。


 アラタは剣士だ。自分の戦場における感をなによりも信じている。

 しかし、飛び込まねば勝てないだろう。


「遅い! 甘い! 弱い!」


 赤髪の少女の叫び声がする。

 見ると、さつきと勇気が蹴り飛ばされていた。


(実戦経験は課題だな)


 そう呑気に思うものの、このままでは二人は焼かれてしまう。

 目の前の障害物を、壊す必要があった。


「最後の勝負を仕掛ける」


「へえ。間合いに入る覚悟ができたと?」


「ああ。お前の間合いの中は確かに危険だ。だが虎穴に入らずんば虎児を得ずとも言う」


「潔い人って好きですよ」


「お前に好かれても嬉しくない」


「大丈夫です。蟻が蝶になったぐらいのものです」


 赤髪の少女の方は、楓が乱入して事なきを得ているようだ。

 それを見て、少し安堵する。

 そして思う。


「こんな戦い、早く終わらせなくちゃ」


「妬けますね。そんなにあの二人が大事?」


「普通の生活に戻りたいんだよ、俺達は」


「それは、減点です」


 エレンは剣を引いて、突きの姿勢を取る。


「覚悟がないのに巻き込まれたとほざく人は、私、嫌いです」


「覚悟なら、あるさ」


 その時、場に不似合いなバイブレーション音が鳴った。

 楓はスマートフォンを取り出し、通話モードにする。


「五芒星の結界に敵が? 二人? はい、即座に人を送ります。私? 私は私で戦闘中ですので」


「戦闘中に他所見してていいのかよ!」


 そう言って、赤髪の少女が叫んで飛びかかる。

 それを、一歩進んで避けただけで、楓はカウンターのパンチを腹部に叩き込む。


「翠! 青葉をつれて神社の結界へ!」


「はい!」


 翠が立ち上がり、青葉と手をつなぐ。そして、次の瞬間その姿は消えていた。

 石神から奪ったワープスキルだ。


「ふふ、ははは」


 アラタは笑っていた。


「見事に踊らされたらしい」


「あなたと決着をつけたいというのは、私の本音ですけどね」


「ああ、つけよう。決着を」


 アラタは氷の剣士に襲いかかった。


「バイト!」


 氷の剣士の詠唱に応じ、氷の顎が現れ、閉じようとする。

 魔力の篭った牙。それは高い適合率を持つアラタのスーツをも食い破るだろう。

 それを、アラタは空中を回転して上下同時に斬り裂いた。


「馬鹿な!」


「決着だ!」


 そう言って、アラタは氷の剣士の腹部を剣の峰で叩き付けていた。

 氷の剣士の口から、赤い血が舞った。




+++




「酷い……」


 すえた臭いを嗅ぎながら、私はその場に降り立った。

 神社の屋根の上。

 境内には血まみれの人だったものが沢山。


「君は酷くないとでも? ソウルキャッチャー」


 それまでしゃがんで地面をいじっていた島津武豊が、振り向いて嘲笑うように言った。

 傍にいる少女は、エレーヌの情報によればシンシアだろう。

 エレーヌと武豊が二人で同時に風属性の刃を放った。

 青葉の陰に移動する。


 青葉は、撫壁を召喚して風を防御した。


「ソウルキャッチャー。やはり君はハードルだ。ここでそれを、乗り越えることとする」


 そう言って、武豊は背中から日本刀を取り出し、鯉口を切った。


「私が武豊をやる。青葉くんはシンシアの確保に注力して」


「……死ぬ気ではないでしょうね? 日本刀のリーチは中々長いですよ」


「なあに、こうするのさ」


 そう言って、私は天に向かって手をかざした。

 月と太陽が同居する不思議な光景。

 いや、それは太陽ではない。

 私の作り出した炎の玉だ。


 武豊に向かって、私は炎を振り下ろした。

 決戦の始まりだった。




第四話 完


次回『五芒星攻防戦』

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