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ソウルキャッチャーズ~私は一般人でいたいのだ~  作者: 熊出
第十三章 悪魔との契約
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夢を見ていました

 エレーヌは目を覚ました。

 翠がエレーヌの手を握って、横で座っている。寝ているらしく、深く俯いていた。

 エレーヌは翠を寝かせると、自分の布団をかけた。

 そして、周囲の惨状に愕然とする。

 壁には蹴った痕跡があり、自分の腕には幾重にも爪で引っ掻いた跡が残っている。


「これは……一体……?」


「薬の禁断症状だよ」


 翠が、優しい口調で言う。

 そして、彼女は体を起こした。


「あなたのせいじゃない」


 そう言って、翠はエレーヌの手を掴む。

 治癒の光が、エレーヌの爪痕を癒やしていく。


「薬……? あれは、そんな危険な薬だったんですか?」


「若干ね。けど、あなたの友達のおかげでストックはできた」


「友達?」


「エレンよ」


 エレーヌは、胸の前で両手を握った。


「私は裏切ったのに。今も、友達と言ってくれるんだ……」


「中々腐れ縁は切れないさ」


 そう言って、翠はエレーヌを抱き寄せた。


「薬を克服したら、学校に行こう」


「学校?」


「勉強をする場所さ。そこでいい成績をとって、いい大学へいって、友達をたくさん作って、好きな職に就くといい」


「私にも、そんな未来があるのでしょうか?」


「あるよ。あなたがくじけない限り。イメージしてみようよ。友達と学校帰りにスイーツを買って、互いのを交換しつつ食べるんだ。きっと楽しいよ」


 エレーヌは、俯いて考え込んだ。

 可能性はあるのだろうか。


「あるよ」


 翠は、エレーヌの心を読んだように言っていた。

 エレーヌは、不覚にも目から涙がこぼれ落ちるのを感じていた。


「夢を見ていました」


 エレーヌは、呟くように言う。


「皆、皆、笑顔で、仲良くしてて。夢の中では、争いなんてないのに」


「……現実の厳しさを知って、皆大人になっていくんだよ」


 そう言って、翠はエレーヌの肩をさすった。



+++




「なあ」


 警察の休憩室で、ジュースを飲んでいた青葉は葵に声をかけられた。


「なんだい?」


「なんでいつもグラサンなんだ?」


「かっこいいだろう?」


「俺ってかっこいいだろう感が出てて鬱陶しい」


「君は今サングラスユーザー全員を敵に回したぞ」


「美形が使う分にはいいんだよ」


「俺みたいに顔に自信がなくて隠してる例もある」


「外せよ、グラサン」


 青葉は黙り込む。

 そして、しばし考え込んで、言葉を発した。


「なんで急にそんなに気にするんだい? 俺がサングラスかけてたのって以前からだろ」


「お前の正体が気になる」


 青葉は再び黙り込む。

 どうしたものだろう。まさか、自分は未来のあなたです、なんて言うわけにもいかない。


「俺は、世界を救いに遠くからやってきた最後にして最強のソウルキャッチャーだ。それ以上に何か必要か?」


「最強は翠さんだろ」


「俺がいない時はな。俺は色々な人から長期間スキルを借りてる。けど、翠さんはそうもいかない」


「……まあ、お前と喧嘩して勝てる気はしないよ。だけどな」


 葵はそこで言葉を切って、拳を握る。


「本当はぶん殴ってでも真実を聞きたい気分だ」


 そう言って、葵は去っていった。


「恐い、恐い」


 青葉はそう呟く。

 昔の自分はあんな激情家だっただろうか。そんなことを思う。

 いや、違う。

 水月の子供のことで、気を揉んでいるのだろう。

 それが、彼の行動を過激化させている。


「……正体を明かしたほうがいいのかね」


 青葉は、そう言ってジュースを一口飲む。

 しかし、昔の自分はタイムトラベルなんて考えてもいなかった。

 それが可能だと教えることで、歴史は変わるのではないか。そんな懸念がある。


 どうしたものか。

 そんなことを、考える。



第三話 完

次回『果たし状』

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