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ソウルキャッチャーズ~私は一般人でいたいのだ~  作者: 熊出
第十三章 悪魔との契約
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禁断症状

「あんまり芳しくないわね」


 通い慣れつつある警察の楓の席に行くと、彼女はそう言った。


「と言いますと?」


「飲んでる薬の中に禁断症状を引き起こすものが複数使われている、と推察されるらしいわ」


 私、斎藤翠は黙り込む。


「薬を最後に飲んでから八時間。禁断症状はいつ出てもおかしくはない」


「なにか、解決策は……」


「あったら現在進行形で話してないわよ」


「そりゃそうか」


 そう言って、私は腕を組んで考え込む。


「どうすればいいと思います?」


「自傷や幻覚、吐き気に妄想、色々引き起こすらしいからね。拘束衣をつけるしかないのかもしれないわね」


「そんな……」


「本人はどうしてる?」


「さつきちゃんと勇気ちゃんとマリオカートしてます」


「呑気なものだわ。薬がどんなものか知らずに飲まされていたのね」


 楓の言葉には憐憫の情が滲んでいる。

 私が抱いたのは、怒りだった。


「彼女達を探そうと思います」


「一対四でもどうにでもできると? ヒーロー」


「実戦経験の差では私に分があります」


「私もついてってやるって言ってるのさ。ヒーロー」


 私は思わず微笑んだ。


「必ず救い出しましょう。二人で」


「ああ、そうさね」




+++




 青葉と水月は、他愛もない日常の話をしていた。

 水月の言葉に、青葉が相槌を打つ。

 そして、時には解決策を提示した。

 二人の時間は、そうやって過ぎていった。


「お前、旅に出たんじゃないのか、青葉」


 そう言ったのは、葵だ。

 青葉はサングラスをかけて、立ち上がると、振り向いた。


「こっちで仕事があってね。お前も知っているだろう。五人の超越者だよ」


「お前……水月の子供の親じゃないだろうな?」


 葵は疑うように言う。


「半分正解で、半分外れだ」


「この問題に半々の答えはないだろ」


 葵は苛立たしげに言う。


「この時代を生きる人間に全ては託される。僕はそう思っている。ただ」


 そこで言葉を切って、青葉は口を開く。


「君には、水月を見捨てないでほしいと、そう思う」


 予想外の台詞だったらしい。葵は絶句する。

 そして、若干焦ったように口を開いた。


「当たり前だ。俺とシスターで協力してその子を育てるんだからな。お前は客でしかない」


 憎悪の篭った言葉に、青葉は苦笑する。


「ああ、頼んだ」


 反論が来なくて拍子抜けしたのか、葵は脱力した。


「喧嘩売ってるんだから買えよ」


「安い喧嘩は買わないに限る。ちょっと対策室に行ってくるよ、水月」


「わかった。早く帰ってきてね」


「それは保証できないなあ……努力はする」


「うん」


 そうして、二人は別れた。




+++




「嘘よ、エレーヌが裏切るわけがない!」


 エレンはそう叫んでいた。


「私は見たんだよ。実際に対策室の連中といるエレーヌを。彼女は先生が攻撃を受けているのに援護もしなかった」


 セレナはいつになく静かな声で言う。


「というわけで、アジトの引っ越しだ」


 先生はそう言う。


「エレーヌを無理やり引き戻しましょう」


 エレンは迷いなく主張する。


「無理だよ。敵はオールスターだ。一堂に会されたら分が悪い。それに」


 眼鏡が光を反射して、先生の目を隠した。

 彼は、エレンにだけ聞こえる声で言った。


「エレーヌは薬を持っていない。あの薬は摂取し続けないと禁断症状を引き起こす。もう常人としての生活は送れないだろう」


「なっ……」


 エレンは絶句する。

 自分達が飲んでいたのは、そんな危険な薬だったのか。

 やはり、この人は恐ろしい人だと再実感する。


「必要な荷物だけ集めて移動だ。急げ」


 そう言って、先生は自室に向かった。

 エレンはしばらく、その場に立ち尽くしていた。


第一話 完

次回『できればその夢が、幸福なものであらんことを』

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