選ばれし子供達
「先生は以前はなにをしていたと言っていた?」
「どこかの総合病院で、産婦人科医をしていたと聞いています」
事情徴収を、ガラス張りの部屋で私達は見ていた。
エレーヌは俯いて、話をしている。
「先生は、島津武豊?」
「ええ、そうです」
「石神の同僚か……」
大輝が吐き捨てるように言う。
「施設の暮らしでなにか決まりはあった? 薬を飲んだとか」
「はい。薬は毎日出ていました。ここに来てからもずっと」
「そうか……薬については副作用もあるかもしれないから、少しチェックをしないといけないね」
「ご迷惑をおかけします」
「先生はなんでゲートを開きたいかとか、聞いたことはある?」
「教えてもらったのは、もっと超越者が必要とされる世界を作ること。それ以外はわかりません。私達は、選ばれし子供だったので」
「選ばれし子供?」
「施設の外に出ることを許された、適合率が高い子供です」
「施設には子供が沢山いた?」
「二百人ほど。けど、訓練での不手際や薬の適応障害で何人も入れ替わってました」
「……人体実験、か。国が絡んでるかもしれないからやり辛いなあ」
楓がぼやくように言う。
「薬の副作用なども出るんでしょうか」
私は、不安の滲む声で言う。
「私達も遊んでたわけじゃない。石神の資料もある。絶対に薬を作り出してみせる」
「しかし投薬でスキルを強化とは、考えたもんだなあ」
大輝が呆れたように言う。
「日本でも戦時中はやっていたことよ」
楓は淡々とした口調で言う。そして、言葉を続ける。
「アメリカは投薬、日本ではアクセサリー。技術は二分化してるのね」
「できるなら」
私は、恐る恐る口を開く。
「あの四人、全員救いたいです」
楓は、悪戯っぽく微笑んだ。
「自覚が出てきたじゃない、ヒーロー。けど」
そう言って、彼女は瞼を伏せる。
「その同情心が仇とならないようにね」
「はい」
五人の敵の一人が投降した。
残る敵は、後四人。
+++
エレーヌは白いなにもない部屋に通された。
監視カメラが常時エレーヌの行動を監視している。
自分が欲しかった結末はこんなものではない。これでは施設にいた時と一緒だ。
そう思って、少し不貞腐れていた時のことだった。
翠が、部屋に入ってきた。
「やあやあ」
「さ、斎藤さん」
「翠さんでいいよ」
そう言って、彼女はエレーヌの隣に座る。
「入っておいでー」
その声に従って、二人の少女が部屋に入ってきた。
「勇気ちゃんとさつきちゃん。剣術強いんだよ」
「よろしく、エレーヌちゃん!」
そう言って、勇気は数歩前に出る。
「君と友達になりたいんだ」
エレーヌは眼を見開き、震え、そして涙を一筋こぼした。
「私も、あなたと友達になりたい」
勇気は手を差し伸べる。躊躇いとともに揺れるエレーヌの手を、彼女はしっかりと握った。
「よろしくね、エレーヌちゃん」
エレーヌの手にも力が宿る。
二人の手はしっかりと繋がれていた。
第十二章 完
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