表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ソウルキャッチャーズ~私は一般人でいたいのだ~  作者: 熊出
第十二章 君と友達になりたいんだ
172/391

エレーヌ

 ショッピングモールで出会ったソウルキャッチャーは、良い人だった。

 ならば、話せばわかるのではないかと思ってしまったのだ。

 なにより、エレーヌは日常に毒されすぎた。

 学校、友達、間食。

 色々なものが世界には満ちている。


 それに触れてみたいと思った。

 そして、エレーヌは歩いている。彼女がいる、警察署へ。


「何処へ行く気だい? エレーヌ」


 声をかけられて、エレーヌは肩を震わせた。

 先生が、道の前に立ちはだかっていた。


「……は、話せばわかると思って」


「話すのが苦手な君に誰がそんな勇気を与えた?」


 エレーヌは黙り込む。


「斎藤翠か?」


 エレーヌは、思わず首を横に振っていた。

 何故、敵を庇っているかはわからなかった。


「せ、先生、行かせてください。話せばわかると思うんです。血を流さずに済む」


 先生は深々と溜息を吐いた。


「ふー……」


 エレーヌは安堵の表情になる。先生もわかってくれたかと。


「あの四人の中に、失敗作がいるとは思わなかった」


 失敗作。その烙印は、エレーヌに膝をつかせるのに十分だった。


「処分しておこう。他の子供達には、警察がやったと伝える」


 そう言って、先生は手をエレーヌに向かって突き出す。

 手に魔力が集中して、スキルが発動しようとしているのがわかる。


「嘘……先生が私を殺すなんて……」


 先生はなにも答えない。その赤い目は、軽蔑するようにエレーヌを見つめている。


「避けろ、馬鹿!」


 そう言って、乱入してきた者がいた。

 彼はエレーヌを抱き上げると、屋根の上へと飛び上がった。

 驚くような身体能力。

 しかし、それも納得だ。

 彼は写真で見たことがある。

 大輝。

 ソウルイーターからソウルキャッチャーに、悪から善になった者。


「お前が今回の事件の元凶か」


「だとしたら、どうする?」


「俺は寝付きが悪くてね」


 そう言って、彼はエレーヌを屋根の上に下ろす。


「不安で寝付きが悪くなっていけない。お前を殺すことでこの戦いに終止符を打つ」


「面白い。やってみるがいい」


 暴風が吹いた。瓦が震えて音を立てる。

 二人は互いに相手に向けて手を伸ばしていた。


 その手から、暴風が放たれる。


 風と風は対消滅した、

 大輝が次の行動に移るのは素速かった。


 先生の前に跳躍したのだ。

 そのまま、上段蹴り。


 先生は吹き飛びはしなかったが、よろめいた。

 その腹部に、大輝の拳が叩き付けられる。

 先生は吹き飛び、壁に叩き付けられた。


「ヌルい、ヌルい、ヌルい、ヌルい……」


 大輝はぼやくように言う。


「じゃあ、少し熱くしてあげようじゃないか」


 そう言って、先生は日本刀を召喚した。

 それを、鞘から抜いて構える。

 大輝は硬直した。


 今の先生には、エレーヌにもわかるほど隙がなかった。

 大輝は風の刃を放つ。

 それを回避して、先生は大輝の腹を刀で斬ろうとした。

 しかし、その時には大輝は後方へと飛んで攻撃を回避し、既に次の行動に移っていた。


 大輝が拳を先生へと向かって振るう。

 先生は刀を使ってそれを防ぐ。


 刀が、折れた。


「風の魔力、全開だああああああああ」


 大輝が吠える。

 その体が、とっさに背後へと飛ぶ。

 大輝は炎を避けたのだ。

 炎を放つ者と言えば、限られている。

 セレナが、そこには立っていた。


「エレーヌ。先生が苦戦しているのにどうして行動に移らないんだよ」


 刺々しい声でセレナは言う。


「セレナちゃん、私、もう嫌なの。人を拐ったり、殺したり。話し合えば、き、きっとわかるよ」


「捕まってモルモットにされるだけだぞ」


「それでも私は、人を殺すより、いい。この国の人は、平和に生きている。それを壊してまで、ほ、欲しいものなんて、ない」


「じゃあ見てなよ。二対一でそいつをボコってあんたを引きずって帰る」


 セレナはそう言って、炎の龍を召喚する。

 大輝はその巨大さに一瞬呆気に取られていたが、回避行動に移る。


 その時、剣がセレナの腹部を貫いた。


「……これだけ大きな魔力を使ってやりあってたら、相馬さんが気づかないわけないじゃない」


 そうぼやくように言って、最強のソウルキャッチャーは佇んでいた。

 翠は剣をセレナから引き抜く。


「そこの先生とかいう男。生徒の怪我を治療しなくちゃいけないわよね。治療しないと出血で死ぬわよ」


「……五分五分という訳か。いいだろう」


 先生の目から赤い光が消える。

 その瞳が、エレーヌを睨みつけた。


「エレーヌ。今回の裏切りはけして許しはしないぞ」


 エレーヌは震える膝を抑え、俯いた。

 先生がセレナを連れて去っていく。

 その時、エレーヌは温もりを感じた。

 翠がエレーヌを抱き締めたのだ。

 不安が緩むようで、エレーヌは涙が次々に目からこぼれ出てくるのを感じた。



第十話 完

次回、第十二章完結。

『選ばれし子供達』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ