両親との別れ
「凄いものですよこれは」
技術班は興奮した様子で、例のイヤリングを楓に渡す。
楓は、対策室で自分の席に座っていた。
「まあ、事実すごかったからね」
そう言いつつ、楓はイヤリングを耳につける。
「一対で魔力を何倍にも増幅する効果があります。ただ、本来のスキルにしか効果はないようですが」
「これも未来の技術、か」
そう言って、青葉に視線を向ける。
「未来でも日本最初の成功作品ですよ。大事に使ってください」
「また来たってことは、未来は変わらなかったの?」
「ゲートの増加。それは変わらなかった。この地に描かれた逆五芒星を発端に、各地でゲートが開き、魔物が日常を侵すようになった」
「結局、今回の敵が本命ってわけか」
「そういうことです」
そう言って、青葉は苦笑する。
やはり、葵と似ているな、と楓は思う。
「で、今回はどれぐらいいられるの?」
「どれほど力を使うか、ですね。恭司さんのスキルはどれも集中力が必要とされます。戦うたびに滞在時間は短くなっていくかと」
「なるほどねえ」
「翠さんの方はどうですか?」
「本来の未来ではどうなっていたの?」
「翠さんは、両親を人質に取られて敵となっていました」
「……それなら、大丈夫だわ」
楓は前を見て、一つ溜息を吐いた。
+++
私は、警察署の一室で父親と向かい合っていた。
沈黙が場に漂う。
母が拐われた後だ。まともに話せるわけがない。
「警察の方の、勧めでね」
そう、父が話を切り出す。
「私達は名前も戸籍も変えて別の地で暮らそうと思う」
私は、ショックは受けなかった。両親の安全を確保するにはそれぐらいのことは必要だと思ったのだ。
「何処へいくの?」
「それは、話せない」
その一言に、私はショックを受けた。
私にも知らせることができない。
つまり、私は切り捨てられたのだ。
「お前の仕事は立派なものだと思っている。何人もを救ってきたんだからな」
父は、淡々とした口調で言う。
疲れきった父。その姿を見ていると、憐憫の情が湧いてきた。
「けど、父さん達は疲れたんだ。私達は、お前みたいにヒーローにはなれない」
「わかったわ」
そう言って、私は席を立つ。
「私は世界を守る。お父さんは、家を守って」
一般人でありたかった。あれなかった。ならば、世界を救うヒーローになるしか道は残っていなかった。
「本当にすまない」
「ううん。迷惑かけてごめん。お母さんにも伝えておいて」
そして、私は歩き始める。
「それじゃ」
ドアノブに触れる。
「翠!」
父に声をかけられ、立ち止まる。
「お前は私達の、自慢の娘だ」
「お父さんも、私の自慢だったよ」
そう言って、外に出る。
これで、天涯孤独だ。そう思い、私は天井を仰いだ。
+++
「ここが最後か」
そう言って、大輝は床に手を付けて爆破する。
穴が開いて、隠し通路が出てきた。
石神が最後まで隠していた隠れ家だ。
それにしてもこの爆破スキル、最初はハズレスキルだと思っていたが案外使い勝手がいい。
あの浪人には感謝しなければならないだろう。
手に炎をともし、階段を降りていく。
そして、その資料の数に驚いた。
部屋中びっしりと資料の詰まった本棚で埋まっている。
その中の一つを手に取り、中身に目を通す。
「……英語はさっぱりだ」
そう言って、大輝は資料を棚に戻した。
スマートフォンを取り出し、楓に連絡する。
すぐに警察が駆けつけて、資料を運び出すだろう。
それに連れてってもらって飯の一つでも奢ってもらおう。そう思い、大輝は椅子に座ってその時を待った。
「ネズミがチョロチョロと鬱陶しいな」
男が部屋に入ってきた。
大輝は立ち上がり、臨戦態勢に入る。
「石神の関係者か?」
「彼は親友だよ。そういう意味では、君は仇になるのかな?」
そう言って、彼は炎を棚に放った。
大輝は風を使ってそれを散らす。
大輝は立ち上がると、跳躍して相手に殴りかかった。
「動きが甘い」
そう言って、男はパンチをいなす。
しかし、それはフェイント。膝蹴りが本命だ。
だが、それをも男は受け止めた。
大輝は後方に飛んで、戸惑いの中で思考を必死に張り巡らせる。
「何者だ? お前」
「皆には、先生と呼ばれているね」
その時、外から人が近づいてくる音がした。
「銃とソウルキャッチャーは分が悪いな」
男は、本当に残念そうにそう言う。
「覚えておくぞ、大輝くん」
そう言うと、男は外へと駆け出していった。
(なにかが動いている……?)
それを実感して、大輝は故郷が気になった。
第八話 完
次回『一時休戦』




