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ソウルキャッチャーズ~私は一般人でいたいのだ~  作者: 熊出
第十二章 君と友達になりたいんだ
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父と子と

「今ティーンエイジャーで次元突を教えた門下生はいなかったの。さらに白人となると、可能性は限られてくる」


 楓と名乗る女性に、島津剣術道場の主、岳は電話口でそう答えた。


「そうですか。うちの協力員が次元突を使う敵と戦ったと言うので」


「それは確実に次元突だったのかの?」


「実際に見たことが何度もある人間なので、錯覚である可能性は少ないかと」


「そうか、そうか……なら、わしも準備をしなくてはならぬかの」


「準備、ですか?」


「ああ。準備、だ」


 そう言って、岳は電話を切る。

 そして、日本刀を手に掴み、振った。

 何度も、何度も、振った。


 全盛期には程遠い。しかし、一般人から見れば洗練された素速い振りを繰り返す。

 そして、正座をして、待った。


 夕日が地面に沈み、月が出てくる。

 今日ではなかったか。そう思い、立ち上がる。

 その時、チャイムが鳴った。


 岳は部屋の電気をつけ、玄関まで出ていった。


「あいとるぞい」


 そう言うと、扉が開いた。

 数年ぶりに見る息子の姿がそこにはあった。


「久しぶりだね、父さん」


「ああ。アメリカでの研究は充実しておるか?」


「まあまあかな。日本よりかなり進んだ技術を実現しつつある」


「それは、人殺しの研究か?」


 意表を突かれたように、息子は黙り込む。

 岳は、目を閉じて溜息を吐いた。


「まあ、入れ」


 そう言って、息子に背を向け、家の中を歩いていく。

 そして、道場に辿り着いた。


 日本刀の一振りを息子に投げる。

 そして、もう一本を自分で持ち、鞘から抜いた。


「なんだよ、物騒だな、父さん。久々に会う息子に」


「白人の少女が次元突を使ったという報告を聞いた」


 息子の表情が険しくなる。


「うちの門下生で海外に行っているのはお前だけだ」


 日本刀を構える。


「お前、海外でなにをしてきた?」


「父さん、相談があるんだよ」


 息子は日本刀を置いて、縋るように歩み寄ってきた。


「僕と石神の選ばれし子供達計画は成功した。しかし、肉弾戦闘を教えられる人員が少ない。特に、日本刀」


 息子は自分の胸の中央に手を置き、言う。


「剣を教えるのはお父さんの生きがいだったじゃないか」


「選ばれし子供達計画か……それが作り上げたのはなんだ?」


 息子は、黙って父の言葉を聞いている。


「石神という男の所業は聞いた。被害者は四桁に達する。お前もその計画に携わっていたということか?」


「石神の目的と僕の目的は違う」


「なら、お前の計画とはなんだ?」


「この力を活かして、英雄になることさ」


「人を殺して、英雄。笑わせるな」


「違う。僕達は人を襲わない。人を襲う生物を倒すんだ」


 息子は夢見る子供のような表情をしている。


「帰れ。お前とは言葉が通じなくなってしまったようだ」


「帰らないよ、父さん。父さんを放置しておけば、厄介な剣士が何人も増える」


 地面に置いた日本刀を、息子は拾った。


「死んでくれ、父さん」


 岳は、深々と溜息を吐いた。


「親不孝もここに極まれりだな」


 息子は地面を蹴って、岳の懐に入る。

 その腹を、岳は蹴っていた。

 息子は数歩後退する。

 その肩から腹にかけて斬り下ろそうとする。


 その瞬間、息子を肩車して妻と手を繋ぎ歩いた日々が脳裏に蘇った。

 息子はさらに後退した。


「甘いね、父さん。今、斬れただろう?」


「息子よ。過去のお前に戻る気はないのか。これ以上、罪を重ねるお前を見るのは忍びない」


「もう退けないんだよ父さん。僕の頭脳はアメリカの庇護のもとにある。それを裏切れば、待つのは死だけだ」


「お前一人の死で済むならば、命など捨ててしまえ!」


「それが息子にかける言葉か。わかったよ父さん」


 息子が地面を蹴る。

 常識を超えた速度に、岳は一瞬戸惑ったが、すぐに対応する。

 そして、剣と剣がぶつかって、幾重もの火蓋を散らした。


「セレナ!」


 息子が叫ぶ。


「あいよ」


 道場の外から炎の玉が飛んできて、岳の右手を焦がした。

 重度の火傷。痛みに、右手の握力が緩まる。


「僕は自分で動く時は百パーセントの勝率がないとやらないよ」


「百パーセントの勝率などあるものか……」


「そう思って、自分を誤魔化してるのさ」


 そう言って、息子は剣を振るった。

 岳の日本刀が、真っ二つに折れた。


「勝負ありだ、父さん」


 岳は腰を下ろすと、焦げた腕を掴んで、荒い呼吸を繰り返した。


「老いとは……慈悲のないものだ」


「そうだね。父さんは天才だった。本来なら僕なんか届かないほどの」


「とどめを刺せ」


「刺さないさ。エレーヌ」


 そう言うと、怯えるように白人の少女が中に入ってきた。


「土の結界で父を拘束してくれ」


「はい、先生」


「くれぐれも窒息死させないようにな」


「もっもちろんです」


 エレーヌはそう言うと、岳に向かって手を差し出した。


(ワシの時代も終わったか……)


 一瞬、脳裏によぎるものがあった。

 病院の一室。技を少し教えただけで吸収した少女と、その師。


(いや、希望はまだある)


 そう思い、岳は微笑んだ。

 棺桶のような泥が、岳を包み込んでいった。



第五話 完


次回『さつきの来訪』

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