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ソウルキャッチャーズ~私は一般人でいたいのだ~  作者: 熊出
第十二章 君と友達になりたいんだ
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巣立つ者、戻る者

「今日まで皆さんお世話になりました」


 そう言って、特務隊待機所で巴は頭を下げていた。

 いつもと同じ、ゲームをして一人で潰す時間。

 それも、ついに終りを迎えたのだ。


「正直、お前さんには振り回されてばっかりだった」


 隊長の五十嵐慎吾が言う。

 巴は、つい俯く。


「けど、おかげで我々はスキルキャンセラーという強力な仲間がいることを確認できた」


 巴は、顔を上げる。

 特務隊の皆は、微笑んでいた。


「頑張ってこいよ」


「ありがとうございます」


 巴は涙を一筋拭いて、頭を下げると、部屋を出ていった。

 これからが私の新たな人生の始まりだ。そんな予感がしていた。



+++



「旅に出るぅ?」


 大輝の言葉に、アラタはついつい怪訝な表情になった。


「そう。期間は無期限」


「なにそれ、警察ってそんな無茶通るの?」


「普通は通らんが、石神のアジトを知ってるのは俺だけだからな。どうとでも言える」


「ほー……」


 アラタは大輝の顔を覗き込んだ。


「そんなに日常が退屈か」


「その言葉、そっくりそのまま返すぜ」


 呆れたように大輝は言う。

 そして、踵を返した。

 アラタは、心臓を氷の矢で射抜かれたような気分になった。


「帰ってくるんだよな?」


「ああ、なにかあったら帰ってくる。響のこと、頼んだぞ」


「わかったよ、お兄さん」


「お前にお兄さんと呼ばれる言われはない」


「響のお兄さん」


「そう、よろしい」


 響と結婚したらこの兄がついてくるんだなあ。

 そう思うと、大輝は少し先行き不安になった。


「じゃあ、またな。お互い健康で」


「ああ、またな、だ」


 ソウルキャッチャーは旅立っていく。

 アラタは欠伸をしながらその背を見送った。

 有事の英雄も平和な時代では疎まれる対象になることもある。

 大輝は、それを察しているのではないかと思う。


 有事の英雄と言えばもう一人。斎藤翠はどうなっただろう。

 最近、顔を合わせていなかった。



+++



「ここが先生の故郷ですか」


 飛行機から降りながら、エレンは言う。


「ああ、そうさ」


 先生、と呼ばれた男は目を細めて周囲の景色を眺めている。


「十数年。変わるものだな」


「先生、ここの超越者はどんなもんですか?」


 男の後ろを歩いているセレナが問う。


「なまっちょろいよ。倫理観という足枷に囚われて新たな発掘を拒む愚か者ばかりだ」


「倫理観があるのは健全ですけどね」


 眼鏡の少女、エレンが溜息混じりに言う。

 金髪の少女二人と赤髪の少女が他にいる中で、黒髪の彼女はいかにも目立つ。


「なんだよー、先生が間違ってるって言うのかよ」


「そんなことは言ってないわ。その方が健全だと言っただけよ」


 エレンが絡んできた赤髪のセレナを軽くいなす。


「まあ、気をつけるのはスキルキャンセラーぐらいだな。それも、重要人物の護衛に駆り出されている」


「スキルキャンセラー……」


 エレーヌが怯えるように呟く。


「どーってことねーって」


 セレナがエレーヌの肩を抱く。


「あれだけ投薬と手術を受けてきたんだ。俺達の勝ちは決まっている」


 男は、微笑んでセレナの頭を撫でた。


「そうだな。我々は、ここの奴らとは信念が違う。君達は辛い日々を乗り越えたエリートだ」


 男は大股で歩き出す。


「行こう。石神の意志は我々が継がなければならない」


 日本の超越者達にとっては不吉極まりない台詞を言って、男は前へ前へと進んだ。



第一話 完

次回『束の間の平和』

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