表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ソウルキャッチャーズ~私は一般人でいたいのだ~  作者: 熊出
第一章 私は一般人でいたいのだ
16/391

暗躍

「という案を思いついて試してみてる最中なんですよ」


「なるほど。街中の猫が監視カメラ代わりか」


 腕を組んでいる楓は、私の案に二回ほど頷いた。


「面白いんじゃないの」


「問題はいかに勝つかですけどね」


「作戦はできている。遭遇さえできれば、勝てるわ」


 楓は怯む様子も一つもなく言う。

 机上の空論でここまで強気になれる女性も珍しいと思う。


「俺が守るよ」


 恭司が苦笑混じりに言う。


「ええ。作戦のキーは恭司、あなたにあるのだから。大いに活躍なさい」


 そう言って楓は恭司の背を叩く。


「まるで学生の運動会だな」


 呆れたように相馬が言う。

 楓が膨れた表情になる。


「ああやだやだ。これだから嫌味っぽい奴は。あんたは作戦のメンバーに数えられてはいないわ。抜けていいわよ」


「緊急時の逃走役は必要だろう。これは本部長の意向でもある」


 それを言われると弱かったのか、楓は黙り込む。

 猫の鳴き声がした。

 シャロだ。

 その鳴き声の意図を、私は汲み取っていた。


「レディ、頭数は揃ったかね?」


 鳴き声で返す。


「揃ったわよ。目標は見つかったかしら」


 シャロが遠吠えをした。

 ざっと二十匹の猫が周囲から集まってくる。


「壮観だなあ……」


 恭司が呆れたように言う。


「俺達、尾行頑張ったんだぜ」


「高級猫缶、高級猫缶」


 猫達は目を輝かせて口々に鳴く。


「それじゃ、行きましょうかね」


 楓が言う。

 シャロと一匹の猫が先導して、四人は十九匹の猫を残して移動していく。

 一度に移動するのは目立つだろうという配慮からだ。


 十分ほど歩いて、アパートに辿り着いた。

 一匹の猫は階段を器用に上っていき、ある部屋の前で座り込んだ。

 彼は鳴いて言葉を伝えてきた。


「ここだぜ」


「ここだそうです」


 私は猫語を翻訳して他の三人に伝える。


「わかった。俺が出よう」


 恭司がそう言って、玄関の扉をノックする。

 出てきた人を見て落胆した。

 パーカーを着たウェーブのかかった髪の女性。明らかにソウルイーターとは異なっている。

 一匹の猫はそれを見上げて自信満々に目を輝かせている。


「すいません、部屋間違えました」


 そう言って、恭司は扉を閉じた。

 間の抜けた沈黙が場に漂った。


「ねえ、ねえ、高級猫缶はまだかな?」


 一匹の猫は待ちきれないとばかりに言う。


「あー……これってもしかして……」


 私は結論を言い淀んだ。提案した手前、この結果は気まずいものがある。


「パーカーを着た人を手当たり次第に当たってるわね」


 楓が全てを察したように壁により掛かる。


「ねえ、高級猫缶、高級猫缶!」


「あー、あのね。今回の人は目当ての人じゃなかったの」


「高級猫缶は貰えないのか?」


 猫はいじけた目になって俯く。


「残念賞はおやつかな」


 そう言って、私は少し高級なキャットフードを地面にばら撒いた。

 シャロと猫は一心不乱になってそれを食べ始めた。

 全てを平らげるまで五分とかからなかっただろう。


「次は目当ての人を見つけるよ!」


 猫はそう言うと、意気揚々と走っていった。


「……まあ、手がかりが無いよりはマシね」


 励ますように楓が言う。


「当たってみますか。手当たり次第」


「他に手もないしね」


 恭司も同調する。

 そして、彼は前を向いて歩き始めた。


「翠さんは柔軟だな。面白い発想だ」


 彼は私を常に褒めているような気がする。

 世間慣れしてそう。生きやすそうで羨ましい。そんなことを思う。

 とにもかくにも、猫でソウルイーター発見作戦は開始されたのだった。



+++



 井上雅彦は十九歳の浪人生だ。

 勉強をしていると親に言っているが、その実なにもしていない。

 夜にランニングをして、気を晴らしている。

 隠し持った力で鬱屈を発散しようかと思う時もあるが、それは警察に厳禁されている。


 その日も雅彦は公園を走って、あるベンチに辿り着いた。

 立ち止まったのは、休むためではない。

 ベンチに紙が置いてあったからだ。


「四百万円当たります……?」


 大きく書いてある文字を読み上げる。

 その下に並ぶ小さな文字を読んでいく。


「もみじ通りの脇にある廃墟の入り口付近コインロッカーの十九番のドアに四百万円を隠しました。手に入れたらあなたのものです。ちなみに機器などを使ってコインロッカーを破壊しようとした場合四百万円は回収させていただきます」


 なんだこれ。というのが雅彦の感想だった。

 悪戯に違いない。たちの悪い悪戯だ。

 そう思いながらも、雅彦の足はコインロッカーに向いた。


 時刻は夜。廃墟付近には誰もいない。

 コインロッカーの前で、しゃがみ込む。


(十九番、か……)


 持ってきた紙を眺める。

 そして、少し躊躇ったが、周囲に監視カメラがないかを確認して、隠している力を使うことにした。


 コインロッカーの十九番の扉の鍵の傍に触れる。

 そして、掌に力を込めた。

 爆発が起こる。

 ロックはへし折れて、扉が開いた。

 これが雅彦の持つスキル。爆破能力。

 扉の中にはバックが入っていた。


 チャックを開けて、中を確認する。

 札束が入っていた。

 その一枚を取り出し、空に掲げる。

 透かしもあるし、子供銀行券でもない。


「嘘だろ……?」


 四百万円が我が物になったというのだろうか。


(馬鹿じゃないか。大金持ちの道楽か?)


 雅彦は駆け始めた。そして、ゲームセンターに入る。

 まずはコインを山ほど買って、コインゲームに投入した。

 飽きるとユーフォーキャッチャーで人形を狙った。

 アームが弱くて少しずつしかずらせないが、人形は確実に穴へと向かっていく。

 それを、繰り返した。


 大量の人形を取って、雅彦はゲームセンターを後にした。

 笑いがこみ上げてきた。

 わけがわからない。わけがわからないが自分は大金持ちだ。

 今までにない万能感が雅彦を包んだ。


 そして、雅彦はまた公園へやって来ていた。

 バッグと人形をベンチに放り出し、座る。

 そして、紙を月に透かして眺める。


「美味い話ってあるもんなんだなあ……」


 しみじみと語る。


「そうでもないさ」


 背後から声がして、雅彦は振り向いた。

 そこには、パーカーのフードを目深に被った男が一人。

 その目は、赤く輝いている。

 その赤い光を、雅彦は知っていた。

 スキルユーザーが、スキルを使うと強い意志で決めた時に現れる光。


「大金を使われたらどうしようかと思ったが、どうやら子供の遊び金程度しか減ってないらしい。俺の全財産だ。これは俺にとっても危ないギャンブルだった」


「なんだよ、お前……こんな場所でスキル合戦でもするつもりかよ」


「くくっ」


 男は、喉を鳴らして笑った。


「本当は飛行系が良かったんだがなあ。なあ。俺には人と人の間の縁が糸状に見える。その相手とはいつ出会えるかわからない。ただ、運命を歪めて出会いを早めることはできる。今回の札束のように」


 雅彦は戸惑った。


「俺に会いたかったってことかよ」


「ああ。そうだよ……餌としてね」


 雅彦は、疑問符を顔に浮かべることしかできなかった。

 そこで、雅彦の意識は途絶えた。

 最後に雅彦が見たのは、自分の体を撫でるように動く巨大な腕だった。



+++



 男は、木に手を押し当てて、念じた。

 掌から爆発が起こり、木が倒れた。


「威力はそこそこだけど近距離限定。ハズレスキルだな」


 そう分析を呟くと、ベンチのバックを持ち上げ、紙を爆破スキルで焼却し、歩き始めた。

 気配を感じて振り向く。

 今は、スキルを使った直後だ。過敏になっているのが自分でもわかる。

 しかし、草むらから現れたのは猫だった。

 安堵の息を漏らし、男はホームへと足早に歩いた。



第十五話 完

本日は『暗躍』『火刑』『覚醒』の三本立てでお送りします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ