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ソウルキャッチャーズ~私は一般人でいたいのだ~  作者: 熊出
第十一章 ゲートは出現した(第一部最終章)
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最恐の帰還

 中央の草原へ出て、私は絶句した。

 石神が四人の戦士を椅子にして足を組んでいる。

 草原では神々しい光が渦を巻いていた。


「異世界へのゲートは出現した。開くまで後数十分と言ったところだろう」


 恭司が撫壁を構えて、前に立つ。


「この際だ。君達も来ないかい? 異世界へ」


 彼の誘いに、私達は戸惑う。


「その世界はね、僕らの時代から随分遅れている。技術的にも、魔術的にもね。そこに現れた我々は神として崇められるだろう」


「あなたは神として崇められるのが望みなのかしら?」


 私は問う。


「うーん、そうだね。難しいな」


 彼は顎をさすって、考え込む。


「元を正せば、我々は猿山の猿だ。猿との遺伝子も大差がない。そして、人となって人類は発展の歴史を進んできた」


「それで?」


「今の世界も猿山と変わらないんだよ。マウントを取りたがる奴。異性を取っ替え引っ替えする奴とそれに引っかかる奴。名性欲に取り憑かれた奴。皆、猿山の高い場所を目指している」


「つまり、こんな世界は嫌いだと」


「君は好きかい?」


「好きよ」


 私は淡々と答える。


「朝目覚めた時、大好きな人が隣りにいる。それだけで世界は輝いて見えるわ」


「そうかい、わからないかい。これは、僕が拗らせているのかもしれないなあ」


 そこで、彼は言葉を切る。


「まあ」


 彼がそう言った瞬間、その姿は視界から消えていた。


「一番の障害物は最初に排除しておくに限る」


 銃声が鳴った。私は頭に衝撃を受けて、地面に倒れ伏した。

 血が流れていく。意識が薄れていく。視界が闇に染まっていく。

 そして、私の意識は消えていった。



+++



 石神はワープして再び距離を取る。

 恭司は撫壁を持ったまま、片手に剣を呼び出した。黒い禍々しいオーラを放つ剣だ。


「アラタ、翠の治癒を頼む」


「やってます!」


「大輝、援護を頼んだ」


「……はい」


「大丈夫か?」


「あの人の顔を見ていると、なにか悪寒がする……」


 大輝は本調子ではないか。それでも、やるしかあるまい。

 例え、一対一になろうとも。


(夏希、紫龍、そして翠。力を借りるぜ)


「電光石火!」


 恭司は唱えた。

 その次の瞬間、恭司の体は石神の前にあった。

 剣を振る。

 それはバリアを割いて石神の皮を断った。


「速いな。けど、それではワープには」


 恭司が剣を振り下ろす。


(後ろ!)


 頭の中に声が響いた。

 剣を背後に向かって振る。


 石神が驚愕したように上空へと逃げていった。


「なんだ、今のは……」


 恭司は戸惑うように言う。


(大輝です。テレパシーで相手の居場所を伝えます)


(そんなこと、できるのか?)


(なんでか、あいつの場所が探知できるんです)


(わかった、頼む)


 恭司は石神に近づいていく。

 石神は再びワープする。


(右斜上!)


 撫壁を振り上げる。

 銃撃は弾いた。


 しかし、剣で貫こうとした時には石神は消えている。

 雷、剣、飛行、そして盾。四つの力を同時使用する集中力が保つのは多分十分程度。

 盾は自分本来のスキルだから使い慣れているが、他は借り物だ。

 恭司は石神との戦いで極度の集中状態にあった。




+++




 どうして石神の位置がわかるのだろう。

 それが、大輝の疑問だった。

 しかし、その力は上手く作用し、味方を助けている。


「血でべっとりだ……」


 アラタが沈んだ口調で言う。

 絶望的な結論を口にだすのは避けた。そんな風に見えた。


(おい、お前)


 心の中で声がした。大輝の声。けど、大輝ではない者の声。


(もどかしい。体、よこせよ)


(君は、以前の僕か?)


(まあ、そうなるな)


(それなら、無理な相談だ)


 もう一人の大輝は黙り込む。


(君は破壊を楽しんでいた。人を殺してきた。そんな人間にどうして意識を委ねられる?)


(けど、お前の戦闘経験じゃこの場を凌げない)


 今度は、大輝が黙り込む番だった。


(心の中に異物があるだろう? それを、ソウルキャッチの要領で飲み込め)


 もう一人の大輝は言う。


(ベースが俺になるか、お前になるかはわからないところだがな)


 大輝は、しばし悩んだ。

 消えるのは、恐い。

 けど。


(仲間が消えるのは、もっと恐い!)


 大輝は心の中の異物を飲み込んだ。

 その瞬間、自分という存在が溶けてなにかと混ざり合っていくのを感じた。


「はは……はははははははは!」


 高笑いが漏れてくる。

 なんて上手く自分はやっているんだろう。


「石神! なんでお前が位置を特定されるか教えてやろう」


 大輝は邪悪な笑みを浮かべて、言う。


「以前、能力をコピーさせた時に、俺の一部もお前の魂にこびりつけたからよ! 今更取れねえぜ、頑固な歪みはよ!」


 石神が苦い顔をする。


「大輝! 記憶を取り戻したのか?」


 恭司が、戸惑うように言う。


「ああ、そうさ。そして、手土産もある」


 大輝はそう言って、手を掲げた。


「石神を倒す、とっておきの策だ」


 暴風が渦巻いた。

 風切り音が周囲に響き渡った。

 最恐は復活した。

 手段を選ばず敵を蹂躙するために。



第七話 完

次回『炎は闇の中で輝く』

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