無駄であろうとも
勇気とさつきは対策室で待機していた。
トランシーバーからは目まぐるしく情報が届いている。
本部長はそれに対して指示をしない。楓に指揮権を委託しているようだ。
その時、対策室の扉が開いた。
松葉杖をついて歩く、巴が部屋に入ってきた。相変わらずのマント姿だ。
彼女は真っ直ぐに本部長に向かっていくと、言った。
「私にも出撃許可をください」
「その足でどう動くと言うんだ。君には各地の印を消す作業をしてほしい」
「そんなこと、後からでもできる! 敵のボスを倒せる機会は今しかない!」
「しかしだな……」
彼女はマントからダガーナイフを取り出すと、足のギプスを斬り始めた。
そして、素足で地面を何度も踏む。
「走れます。私は、戦士だから」
本部長は黙り込んだ。
そして、しばしの沈黙の後、溜息を吐いた。
「正直、強い力はあればあるほどいい」
「では?」
「楓部隊の後を追え。ソウルキャッチャーズとの挟み撃ちの形になる。銃撃してくる敵は殲滅しきったらしいから、今の君でもいけるだろう」
「了解」
「私達も護衛しますよ」
さつきが軽い調子で言う。
「そうですね。病み上がり一人では不安です」
勇気も同調する。
「なにより、私の次元突はバリアを無効化できるんです。戦力ですよ」
「……これを約束してくれるなら君達をいかせよう」
三人とも黙って、本部長の言葉を待つ。
「生きて帰れ」
「はい!」
異口同音に、三つの声が重なった。
+++
「やあ、やっぱり一番乗りは君達だったか」
草原の中央で、石神は拍手した。
特務部隊の四人は歩みを止め、そして唖然とする。
巨大な光の塊が、石神の背後で渦を巻いていた。
「これはできかけの異世界への扉でね。僕は異世界に行って人生をやりなおすんだ。こんな腐った世界から離れてね」
「確かに、この世界は生き辛い。けど、頑張って生きている人もいる」
リーダー格の男が言う。
「僕だって頑張ったさ。その成果がこれさ。僕の研究資料で警察の超越者の情報も数十年分は進んだんじゃないかい?」
「俺達はお前みたいに人をモルモット扱いしないからな」
「これは手痛い」
「もういい、死ね」
そう言って、リーダー格の男は指で石神を指した。
光が走る。石神は、二歩走るだけでそれを避ける。
空中に浮かぶ鏡が、光を反射させていた。
鏡は幾重にも浮かんでいる。それは石神を囲む檻のようだ。
光は石神を包み、そして中央へ収束しようとした。
その時、銃声が鳴った。
リーダー格の男が、腹を抑えて膝をつく。
いつの間にか、その隣に石神が立っていた。
「バリアの中にワープしてきた?」
バリア能力者が戸惑うように言う。
「さて、賢明な君達なら、どうなるかわかるだろうね」
全員、攻撃の構えを取った。
「よく訓練されている。僕の部下じゃないのが惜しいほどだよ」
そう言って、石神は殲滅を開始した。
第六話 完
次回『最恐の帰還』




