決戦前の僅かな時間で
「頼みたいことがある」
あらたまって相馬が言うので、楓は戸惑った。
「この戦いに生き残ったほうが、有栖を育てる。そう約束してくれ」
楓は苦笑した。
「死ぬならあんたじゃなくて、私さ」
「炎の盾があるだろう」
「それがね、予知されたんだ。青葉に。私はこの戦いで、頭を撃たれて死んだって」
相馬は黙り込む。
「有栖ちゃんには、私が死んでも伝えないで。転勤したって言っといて。んじゃ」
「守ってみせる」
相馬が言った。
予想外の一言に、楓は振り向く。
「俺は勘が鋭い。俺が守ってみせる」
「期待はしてないよ」
そう言って手を振ると、楓は自分の準備に戻った。
不覚にも、胸がときめいていた。
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アラタはスマートフォンで現状の説明を聞いて、真っ青になった。
「どうしたー? アラタ」
「師匠、休憩長いです」
勇気とさつきが催促してくる。
剣術の修行の途中だったのだ。
「ちょっと、用事ができた」
「対策室絡み?」
さつきが問う。
「異世界へのゲートが開く。放置しておけばモンスターが町を闊歩するようになるらしい」
「なるほどね」
「私達もついていきます」
「お前達は留守番しておけ」
「なんでですか? レーザーだって、次元突だって、力になるはずです」
勇気が食い下がる。
アラタはしばらく考えて、苦笑した。
「対策室で待機だ。俺達が敵わなかったら、お前達に託す」
「了解しました!」
「ま、そこが妥当なセンね。私達、警察の信頼得てないし」
と、さつき。
響が道場に入ってきた。
「アラタ」
事情はもう知っているのだろう。不安げな顔をしている。
「……大丈夫だよ。生きて、帰る」
そして、二人は接吻をした。
一度じゃ足りない。何度でも口づけをしたい。
だから、生きて帰るのだと、アラタは決意を固めた。
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恭司と私は、警察署の前で顔を合わせた。
恭司はなんとも言えない表情をしている。
「チートだよ」
そう、私はぼやくように言う。
「攻撃はバリアで阻まれるし空は飛ぶしテレポーテーションはするし。スキル使いの頂点みたいな奴だ」
「それと、今から戦うわけか」
恭司は、情けない表情になる。
「今から、あなたにスキルを預けようと思う」
「スキルを?」
「多分、私じゃ石神の足止めはできない。アラタの一撃を確実なものにするために、あなたにスキルを預けたい」
「……死ぬ気じゃないだろうな?」
「まさか。私はまだ生きていたいよ」
そう言って、私は恭司に抱きつく。
「テーマパーク行く約束、まだはたしてないからね」
「そうだな。ああ、そうだ」
恭司は抱きしめ返してくる。
二人はしばらくそうやって、抱きしめあっていた。
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アラタの迎えの車に、大輝も乗っていた。
運転手の楓に問う。
「ピークの能力を持っていない僕は、期待に応えられるでしょうか」
「わかってないわね。ピーク時じゃなくてもあなたは十分強いのよ」
楓は穏やかに言う。
「それに、石神を見ればあなたの記憶も蘇るかもしれない」
なるほど、そんな考え方もあるわけか。
「妹が暮らす町です」
大輝は、自分に言い聞かせるように言う。
「僕が守ってみせます」
「そのいきだ!」
そう言って、楓は大輝の肩を勢い良く叩いた。
大輝は、決戦への決意を深めていた。
第四話 完
次回『作戦開始』




