平和は永遠には続かない
私、斎藤翠は、こんな日常が続くのではないかと漠然と思い始めていた。
ソウルイーター達は全員が能力を失うか、味方となった。
残る敵は暗躍しているようだが、一人ではなにもできないだろう。
平和は戻った。そうとすら思う。
そうそう上手くいかないのが世の中だ。
残る一人は最強のキング。
一体で進軍してその後にはぺんぺん草も残らない。
挑むはソウルキャッチャーズ。
石神との最後の戦いが始まろうとしていた。
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「平和ですねえ」
私は礼拝堂の椅子に座って言う。
「ええ、まったく」
シスター水月は大きくなった腹を擦りながら言う。
「予定日は?」
「まだまだ先です。不安と期待が入り混じってる感じですね。私の模範となる母も先立ってますし」
「うちの母親に頼んでみようか?」
「うーん……」
水月は顎に指を当てて考え込む。
「それは流石に申し訳ないかな」
「うん、我ながら図々しい提案だった」
「そんなこと、ないですよ」
水月は微笑む。
「一人で育てるのも限界があります。きっと、色々な人に迷惑をかけるでしょう。けど、私は産みたいんです」
「……凄いなあ。すっかり母親になってる」
「まだ仮免許ですけどね」
そう言って、水月は苦笑した。
「翠さんは結婚しないんですか?」
意表を突かれて、私は目を丸くした。
「え? え? 私?」
「ええ。結婚願望はあるでしょう?」
「いやー、恭司と一日中一緒とかちょっと考えられないし。まだ保留かなあ。それに」
「それに?」
「元の生活に戻れてないしさ、私」
沈黙が場に漂った。
戦場に投じられて久しい。
私の人生は、この先も血の色に染まっているのだろう。
「いいじゃないですか。時々休んでも」
「まあ、そうなんだけどね。先のこと、か……」
吃驚するぐらいノープランだ。
今の生活にも慣れつつある。
人間の適応能力に、時々驚かされる。
「私も翠さんみたいになりたいですね」
水月がからかうように言う。
「どんなさ」
「ピンチに颯爽と現れて皆を救う。そんなヒーローになりたいです」
「私もまだその域には達してないさ」
「ヒーロですよ」
水月の声は穏やかだった。癒やされるような気分になる。
「私にとっては、ヒーローです」
「あー、やめやめ、この話題、やめ」
そう言って私は手を振る。
「照れくさいったらありゃしない」
「ふふ。翠さんらしいですね」
その時のことだった。
巨大な気配を察して、私は腰を浮かした。
感じられる位置は、かつて敵が逆五芒星を作ろうとした位置。
水月も表情を強張らせている。
「ちょっくら行ってくる」
そう言って、私は立ち上がると、その場を後にした。
「気をつけて。神は善なる者の味方です」
水月の声が、背後から飛んできた。
そして、私は空を飛んで移動した。
今気配を察知した場所ではない。次に相手が狙うだろう場所だ。
第一話 完
第二話『届かぬ拳』




