切ない夢
「楓、飲み会参加する?」
「する」
「んじゃ会費」
そんなやりとりが隣でなされているのを、僕は他人事のように聞いていた。
この前の件もあったので、自分は訊かれるまでもないだろうと思っていたのだ。
「大輝くん、飲み会参加する?」
思わぬ声が飛んで来た。
見ると、美沙子だ。
ここらで僕も、この対策室に馴染まなければならない。そう思う。
「ノンアルコールでいいなら」
「会費は立て替えとくよ。就職祝いだ」
「あ、ありがとうございます」
最近、普通に挨拶してくれる人が増えた。
どんどん、僕も周囲も変わっていくのだと思う。
パトロール前の平和な時間。
僕は、それを噛み締めていた。
+++
夜の公園で、男の高笑いが鳴り響いていた。
男の顔には、切り傷の跡がある。
「ついに手に入れた。ついに手に入れたぞ!」
男が叫ぶ。
その顔からほうれい線が消え、皺が消え、白髪は黒く染まっていく。
「異世界への最後のピース、若返りのスキル! これで条件は揃った! 後は……」
男は手を強く握りしめた。
「ゲートを開くだけだ」
男の野望は、達成されようとしていた。
+++
飲み会も滞りなく終わり、寮に帰って寝た僕は、不思議な夢を見た。
車は美沙子の婚約者が運転している。
顔はわからないけど、そうだとわかった。
助手席には美沙子。
後部座席には僕と相馬と楓が乗っている。
皆楽し気に会話して、美沙子がビーチボールを膨らませ始めた。
そうだ、海へ行くのだ。皆で海へ。
胸は期待感で高鳴っていた。
そこで目が覚めて、僕は少しの間だけ泣いた。
それは、忘れることのできない罪の記憶。
その重さは、少々僕には厳しかった。
次回から第十一章(一部最終章)の投稿となります。




