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狙いはどちらに?

 見つけたのは、なんでもない速度違反車だったのだ。

 その車は、大輝の作り出した巨大な腕にぶつかってへこんでいる。


 大輝はほぼ力を取り戻したようだ。それを思って、美沙子は安堵する。

 そして、事情徴収を終えると、再び車に乗って走り始める。


「どっか出かけたいわね」


「今は夏休みでどこも人だらけですよ」


「あーそれがあったか」


 呑気なものである。


「大輝くん、寝てていいわよ。なにかあったら起こしてあげるから」


「お言葉に甘えようかな。悪夢を見てあんまり眠れてないんですよ」


「悪夢?」


「叫んだり怒鳴ったりして暴れてる夢を見るんです。毎晩、毎晩」


「今日は私がついてるから、見ないわよ」


「どうだろうなあ……」


 そう言って、大輝は目を閉じた。

 三十分ほど走って、美沙子は車を停める。

 そして、ポシェットから、一丁の銃を取り出した。


 それを、大輝の顔に向ける。

 大輝は、目覚めない。

 安堵しきっているのだ。


 苦笑すると、美沙子はポシェットに銃を戻した。

 そして、顔をあげて絶句した。

 そこには、銃を構えた楓が立ちはだかっていたから。


 両手を上げて扉を開け、車から出る。

 空から相馬が、楓の横に舞い降りた。


「憎しみを捨てきれなかったの?」


 楓が、憐れむように言う。


「違うわ」


 美沙子は、淡々とした口調で言う。


「恋人を殺した男が役立たずだなんて、割に合わないじゃない。彼はこれからも罪を償い続ける。だから、覚醒の手伝いをした」


「あなたの予想通り、大輝くんは次々に能力を取り戻していったわけだ」


「そうね。刺激すればなにか起こるとは思っていた。で、どうする? 私を逮捕する?」


「盗んだ銃、こっちに蹴って」


 指示されたまま、銃を取り出し、相手に蹴り飛ばす。

 それは、楓の手の中で溶けていった。


「これで証拠隠滅。やったね。私も仲間だ」


 感情のこもらぬ声で楓は言う。


「私を見逃すの?」


 訝しげに美沙子は言う。


「これであんたを逮捕したらますます大輝くんの居場所がなくなっちゃうじゃない」


 楓は溜息混じりにそう言って、言葉を続けた。


「あなたにこれを頼むのは酷かもしれないけど、大輝の仲間になってやって」


「……早いわね。孝則が死んで、もう一年近く経つのかしら」


 美沙子は、両手を下ろした。


「こんないい子が犯人じゃなければ良かった。中年で、憎めるような相手なら良かった」


 美沙子は溜め息を吐く。


「不思議ね。本音を言うと少し楽になった」


「一人で溜め込んでるからそうなるんだよ。私達は、仲間だ」


 そう言って、楓は手を差し出した。

 美沙子は五秒ほど悩んだが、最終的にその手を取った。



第十一話 完

次回第十章大団円『切ない夢』

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