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ソウルキャッチャーズ~私は一般人でいたいのだ~  作者: 熊出
第一章 私は一般人でいたいのだ
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猫との交渉

 県下の何処かに潜むソウルイーター。発見するのは難儀だ。

 どうしたものだろう。ベッドに寝転がって考える。


(そもそも私、無関係なんだよなあ……)


 恐ろしい鬼との戦い。ソウルイーターとの遭遇。興奮して、中々眠りはやってこない。念のため、スマホのアラームの回数を増やす。

 結局そうやって機械を操作しているのも寝れないが故の現実逃避だ。


「あ」


 閃きがあった。

 これなら上手く捜査できるのではないだろうか。そう思い、大学ノートのページを一枚破いて、シャープペンシルを走らせていく。


 十分後、力作が完成した。

 フードを深く被った、十代後半から二十代前半の男。


「ねえ、作戦閃いたんだけど」


 うきうきで話しかけるが、憑依霊歩美は就寝中だった。

 呑気なものだ。

 鼻白んで、私もベッドで眠り込んだ。

 脳裏に鬼の形相が過ぎって、中々眠りはやってこなかった。

 今、私のやっていることは一般人を逸脱している。あらためてそう思った。


 翌日、私は早めに家を出た。

 野良猫に餌をやっている老人がいる家の前を通る。

 そして、私は鳴いた。


「なにそれ。猫みたい」


 歩美が、呆れたように言う。


(私、猫の魂も吸収してるからね)


 しばらくすると、猫が二、三匹ゆっくりと出てきた。

 その動きが、私を見て警戒心を見せる。


 再び、私は鳴く。


「あなた達に危害を与える気はないわ。捕まえる気もない」


 反応が返ってくる。


「人間にも猫語を喋れる奴がいたのか」


「驚きだな」


 私は話をすすめる。


「今、県下にソウルイーターという恐ろしい化け物が彷徨いているの。そいつを放置したら、鬼なんかが召喚されて皆危険な目に合うわ」


「鬼?」


「鬼ってなんだ?」


「人間より大きくて金棒を持っている破壊の化身よ」


「それで、お嬢さん。俺達に話しかけた動機はなんだい?」


 少し賢そうな猫が顔を洗いながら訊く。


「犯人の捜索に協力してほしいの」


「僕達のメリットは?」


「高級猫缶。凄く美味しいわよ」


 その一言を聞いて、少し賢そうな猫はうっとりとした表情になった。


「高級猫缶か。それはいい」


「高級猫缶? 美味しいのか?」


 もう一匹の猫が疑わしげに言う。


「ほっぺが落ちそうになるとはこのことだよ。ささ、レディ。犯人の特徴を述べるんだ」


 私は鞄から昨日作った人相書きを取り出していた。


「ふむふむ。フードを深く被った十代後半から二十代前半の男、か」


「時に訊くけど、猫に人間の顔はわかるの?」


「フィーリングだな」


 私は肩を落とした。あてにならない返答だ。


「まあ、多くの猫に伝達してちょうだい。私は待ってるから」


「任せてくれたまえ」


 少し賢そうな猫は、そう言って人相書きを眺めた。


「君、名前は?」


「シャロ、と人は呼ぶよ」


「そう、シャロ、よろしく」


 私が手を差し出すと、シャロはその上に手を置いた。



+++



 シスターは教会の庭で野良猫に餌をやっていた。

 この野良猫、一家だ。親が子を産んだのだ。

 最終的にどれだけの数になるか、シスターにはわからない。

 いつかこのままでは面倒を見きれなくなるだろうな、と朧気に思っている。


 缶の中身を全て地面に落とすと、洗うために空の缶を持って洗面所へ向かう。


(神よ。私は正しい行いをしているのでしょうか)


 心の中で、神に問う。

 返事はない。

 神を試してはならない。キリスト教の基本だ。

 しかし、神は人を試す。時に意地悪く、時に残酷に。


(何故、私にこのような立ち位置を用意したのでしょうか……)


 溜息混じりに考える。

 その時、扉が開いた。パーカーを着た男が入ってきた。


「朝飯ある?」


「作るのでしばし待っていただけるとありがたいです」


「悪いね。居候の立場だから催促するつもりはなかった」


 シスターは微笑む。

 この男は不思議な力を持っている。

 けど、その力の根源はなんだ?


 天使か? 悪魔か?

 シスターは、悩んでいた。



第十四話 完

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