孝則
「おい。ソウルイーターと仲良くしてるらしな」
僕が対策室に入ろうとした時のことだった。
中から、話し声が聞こえてきた。
「孝則のことは忘れたのか? 悪いとは思わないのか?」
「忘れるわけないでしょ」
美沙子が冷たい声で言う。
「それはそれ、これはこれ。全ては仕事よ」
「お前がそんな人間味のない奴だとは思わなかったよ」
そう言った男の足音が近づいてくる。
僕は思わず、近くにあるトイレに逃げ込んだ。
足音が遠ざかっていく。
僕は、足音を殺して対策室の扉を開けた。
美沙子が泣いていた。
見てはいけないものを見てしまった気分になった。
「あ、大輝くん、ごめんね」
そう言って、美沙子は涙をハンカチでふいている。
「……あの、僕の案内することで美沙子さんの立場が悪くなるなら」
「いえ。気にすることはないわ。それで、ソウルキャッチャーとしての能力は復活しそう?」
「それが、腕を出す方法を思い出しました。多分、記憶を失う前にやや劣る程度の戦闘力は期待できます」
「それは凄いわね」
美沙子の表情が明るくなる。
「私も手伝ったかいがあるってものだわ」
「本当、感謝してもし足りません」
沈黙が、漂った。
美沙子は自分の席につき、僕も自分の席につく。
「孝則って、誰ですか?」
美沙子の表情が強張る。
「聞いてたの?」
「不可抗力というか、まあ、はい……」
「そう……」
美沙子が手を組んで、その上に顎を乗せる。
「婚約者だったの」
「過去形、ですか」
「君が殺したからね」
僕は、矢で胸を射られたような気分になった。
心が痛い。罪悪感で張り裂けそうだ。
「だから、私は率先して君を馴染ませないといけない。そうしないと、派閥ができちゃうから」
淡々と美沙子は言う。そして、苦笑した。
「まあ、結局できちゃってるんだけどね」
「僕は……どこまでいっても人に迷惑をかけてばっかりだ」
「今の君ではないでしょう?」
「けど、僕の犯した罪は罪だ。いくら人が変わろうと、いくら性格が変わろうと。犯した罪は変わらない」
「償っていくしかないんだよ」
美沙子は溜息を吐く。
「私も、仕事で人を殺めたことがある」
衝撃の告白に、僕は口を中途半端に開けただけで対応できなかった。
「それも、背負っていかなきゃならないと思っている。誰だって、後ろ暗い過去ぐらい持っているのさ」
美沙子は苦笑した。
「これでいいかい? ソウルキャッチャー」
「……僕も、役に立てるように頑張ります」
「いい返事だ。活躍、期待してるぞォ。孝則の分まで働いてくれ」
「はい!」
僕は、根本的な部分で思い違いをしていたのかもしれない。
自分の過去なんてどうでもいい。
身近にいる人を思いやることができれば、それが一番なのではないかと。
もちろん、スキルはあるにこしたことはないのだが。
そして、僕は報告書を作成していた。
妹を撃たれた件についてだ。
それを眺めて、楓が怪訝な表情をした。
「んん……?」
「どうかしたんですか?」
「いや……どうもしないよーっと」
そう言って、楓は伸びをした。
第九話 完
次回『考察班』




