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響け叫びよ

 近くの公園のブランコで、僕と響は並んで座った。


「はい、お兄ちゃん」


 そう言って、響がアイスを差し出してくる。


「コンビニで買ったばかりだから溶けてないと思うよ」


「ああ、ありがとう」


 そう言って、アイスを一口食べる。

 糖分が頭に満ちていく気がした。


「どうしたの? てかそういや私お兄ちゃんち知らないよね」


「ああ、そういえばそうだな」


「たまに料理でも作りに行ってあげようか?」


「いや、いいんだ。それは、アラタに悪い」


「兄妹じゃない。気にすることないわ」


 そう、響はのほほんとした口調で言う。

 なにか、癒やされたような気分になり、苦笑を顔に浮かべる。


「なあ」


「なに?」


「なんで俺達、家も育ちも違うのに兄妹なんだっけ?」


 アイスを食べていた響の口が動きを止める。

 しばらくして出てきたのが、この答えだった。


「兄妹だからだよ」


「答えになってねー」


 苦笑するしかない。


「俺達はおもい総合病院へ行った。そこで、なにかを知ったんだな?」


 響は黙り込む。

 その沈黙は、白状したに等しかった。


「俺は、もしかして……」


 その時、銃声が鳴った。

 響が地面に倒れ伏す。血溜まりが溢れ出す。見ると、響の背中の中心に穴が空いていた。

 慌てて、手を当てて治癒の光を灯す。


 十分ほどすると、響の呼吸は正常に戻った。


「出てこい! 卑怯者!」


 僕の周囲には何十本もの巨大な腕が現れていた。

 それは、僕の憎悪に呼応し、共鳴していた。


「狙うなら俺を狙ってみせろ!」


 叫び声は、虚しく周囲に響いた。

 結局、暗殺者には逃げられてしまったのだった。



+++



 目が覚めると、大きな背中が見えた。

 温かい背中。

 それに、響は顔を埋める。


「目、覚めた?」


 兄の安堵したような声がする。


「うん。服は駄目っぽいけど、体は大丈夫」


「そうか」


 兄はいつになく優しい口調でそう言う。


「しばらく、会えなくなる」


 兄の突然の言葉に、響は戸惑った。


「なんで?」


「どうも暗殺者に狙われているらしくてね。僕と一緒にいたら、君達にまで被害がいく」


「大丈夫だよ。そんなの、アラタがやっつけてくれるよ」


「心臓打ち抜かれて死にかけた奴の台詞じゃないよ、それ」


「お兄ちゃん……」


 響はしばし黙り込んで、そして思い切って言った。


「いい? どんな事情があろうとお兄ちゃんは私のお兄ちゃんなの」


「うん」


「だから、あんまり遠くに行かないで」


「……ああ、わかった」


 兄はこれからも記憶を追うのだろう。

 その中で、自分達の関係にも気づくかもしれない。

 今の兄は穏やかで、職場でも友達ができたと聞く。

 だから、またいきなり旅ガラスになるような以前の兄に戻らないようにと、響は祈った。

 この心の叫びが、兄の心の響けばよいのに。

 そう思いながら、ゆっくりと動いていく町並みを眺めた。



第八話完

次回『孝則』

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