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ソウルキャッチャーズ~私は一般人でいたいのだ~  作者: 熊出
第一章 私は一般人でいたいのだ
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神楽坂葵

 神楽坂葵には昔から不思議な友人がいた。

 その友人に抱きつかれてしばらくしてふと気がつくと、体力を異様に消耗していることに気がつくのだ。

 相手はもしかして魔女か?

 馬鹿げた話だがそんな風に真剣に考えたこともある。


 全ては過去の話だ。

 その友人に抱きつかれることは、当分はないのだから。

 心臓発作だった。町で倒れているところを発見されて、救急車で搬送され、今は病院で沢山の管に繋がれている。


 なにか大事なものを失ってしまったような気分に葵はなっていた。

 思春期になっても抱きついてくる異性の幼馴染。鬱陶しいと思ったことは何度もあった。

 けど、嫌ってはいなかったのだと、心の底から思い知らされた。


 転機が訪れたのは夏だ。

 葵は、バイト帰りに倒れている人を見つけた。

 友人のことが脳裏を過ぎった。

 心臓に耳を当てて、心音を確認しようとする。


 そこで、彼が所持している拳銃に気がついた。

 警官。

 拳銃を掴んで考え込んでいたのは数秒足らずのことだったと思う。

 救急車がやってきて、葵は銃を片手にその場を逃げ出していた。


 家のテーブルに拳銃を置く。

 そして、考え込む。

 何故、こんなことをした?

 指紋は残らないように配慮はした。しかし、これでは犯罪者だ。


「変なことだらけだ」


 葵は呟く。

 銃を持ち上げて、構えを取る。

 その次の瞬間、目の前に見知らぬ人が現れて、葵は引っくり返りそうになった。


「助けてください」


 見知らぬ人の第一声が、それだった。


「なにをどう助ければいいんだよ」


 葵は、怯えながらもぼやくように言う。


「私達の魂は囚われてしまった。一人の男の体の中に。ソウルキャッチャーを見つけて、男から魂を引き剥がして……」


「おい、ソウルキャッチャー? 魂を引き剥がす? なんのことだ?」


「助けてください。助けて、助けて、助けて、助けて……」


 一方的に再生される音楽ファイルを聞いているような気分だった。

 葵は銃を床に投げ捨てた。

 見知らぬ人は、消えた。


 そして、葵の中で全てが一つに繋がった。

 自力呼吸もできなくなってしまった幼馴染。

 失われてしまったような魂。


(この町の何処かに、あいつの魂を持っているやつがいる)


 葵は屋上に出て、町を見下ろした。

 町の灯はまだ消えてはいなかった。

 固く握りしめられた手には、銃があった。



+++



「化け物ですよ、あれは」


 ハンバーガーショップの椅子に座り、ポテトを食べながら私は告げていた。


「化け物、というと?」


 楓が不快げに眉根をよせる。


「沢山の魂をストックしてる。常人なら沢山の意識が自分の中に流入してきたら発狂すると思います。しかし、彼はそれを軽々とこなしている」


「あの腕は、ストックされた魂のものというわけか……」


 楓は組んだ手の上に顎を乗せ、考え込む。


「まあ、全員無事でよかったんじゃないの?」


 そう言うのは、私の肩の辺りに浮いている憑依霊歩美だ。


(あんたはなにしてたわけ?)


「鬼が怖くて震えてた」


 悪びれもせず、歩美は言った。


「なるほどね。常人の壁を打ち破る超越者の中の超越者。化け物が相手、か」


 楓は組んでいた手を離し、ポテトに手を伸ばした。


「また遭遇できると思う? この、広い県下で」


 いつになく楓は弱気だった。


「できるでしょう」


 私は、淡々とした口調で言う。


「奴が、犯罪を繰り返す限り」


 楓は苦笑した。


「一般人に諭されるとは、刑事失格ね。それはそうと、鬼はなんだったのかしら」


「わからないところですねえ。召喚術っていうんでしょうか。あれって」


「昔、陰陽師は式神を駆使したともいうわ。そこから流用したテクニックなのかもしれないわね。ねえ、翠。魂は確かに五つだったの?」


「見える限りでは」


「五個であんな化け物を呼び出せるなんて冗談じゃないわ。魂が重なってて少なく見えたと思いたいところね」


「まったく、そうですね」


「敵の目的が見えないのも不気味だな」


 それまで組まれていた腕が解かれ、痩せ細った手がフライドポテトを一個食べる。

 相馬だ。


「鬼の召喚が目的なのか? ならば何故? 奴はもう人間何十人分もの生命を手に入れている。表に出る理由はなんだ?」


「鬼は餌、と私は見ているわ」


 楓は淡々と言う。相馬は怪訝そうな表情になる。


「何故、そう思う?」


「本人の発言よ。これは俺の餌だって言ってたでしょう。奴は」


「確かにそんなことを言っていたな。全ては、奴を強化するための布石というわけか」


「ねえ。いつまで拮抗できると思う? ソウルキャッチャー」


 私は黙り込む。俯いて、コーヒーを一口飲み込む。


「相手は自己強化を続けている。常に前を走っている。それに対してあなたはほぼ無強化の状態よ。差は開いていくんじゃないかしら」


「けど、吸える魂なんてないじゃないですか」


 この件に関しては打てる手がない、というのが私の実感だった。


「熊退治にでも行こうかしら」


 冗談なのか、真面目なのか、楓が蓮っ葉に言う。

 冗談であることを祈りながら、私はコーヒーをもう一口飲んだ。

 事件は、まだ混迷の中にある。


第十三話 完

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